「御法度」のプライベート投資を解禁

そういったセミナーや機関投資家向けの専門誌では今、ほぼ一点集中といっていいほど「プライベート投資」に注目が集まっています。

プライベート投資とは、証券取引所などの市場で売買されない商品への投資です。不動産やインフラストラクチャー、また株式や債券であっても非上場・未公開のプライベート・エクイティ、プライベート・デットなどが対象です。

これらは、伝統的な債券、株式を代替・補完する「オルタナティブ資産」として、企業年金は従来から一定規模の投資をしてきました。私が昨年春まで運用を担当していた企業年金基金でも、資産全体の30パーセントまで投資枠を設けて、徐々に投資を拡大していました。

ただ、プライベート投資は市場を経由しないため、直ちに換金できず流動性が低い。実態価値もリアルタイムで測りづらい、などといったデメリットもあります。このため、年金支給のためのキャッシュを多めに必要としている企業年金や、保守的な運用の考えの担当者の中には「低流動性資産は持たない」と決めているケースもあったのです。

ところがコロナ禍による混乱が落ち着き、米国をはじめ各国がこぞって金利の引き上げへと舵を切り、また大規模な戦争も始まって、伝統的な債券や株式が大きく値下がりしました。そうした中で、プライベート資産は市場にさらされていない分、価格変動は概してマイルド。また、個別具体的な資産によっては大きなリターンを獲得するケースもありました。

このため、プライベート投資を内部的に「御法度(ごはっと)」としていた企業年金でも投資を検討し始めたり、既に投資をしている所では投資枠を一時的あるいは恒久的に拡大したり、といった動きが出てきたのです。

株式戦略は影を潜める

その一方、伝統的な債券・株式に関するセミナーや、企業年金に対する商品の売り込みは、ぱったりと減った印象です。

それでも債券は依然「主食」ですので、債券セクター内で現状より収益改善に結びつきそうな商品を探し、良いと思われるものに乗り換える、といった動きは続いています。

ただ、株式はどうでしょう。運用会社や信託銀行による個別具体的な提案は企業年金に対して恐らくあるのでしょうが、セミナーや専門誌の誌面ではすっかり影を潜めている印象です。