「NISA口座開設が面倒」などと言っている場合ではない
ただ、冷静に考えると、億円単位の金融資産を持っている富裕層に関しては大きな影響が及ぶ問題でも、それ以外の一般の人たちにとっては、おそらく金融所得課税の強化は、あまり影響のある話ではないかも知れません。
2024年からスタートする新NISAで、最大1800万円の非課税枠が実現します。既婚者であれば夫婦で新NISAの枠を個別に使えるので、夫婦で3600万円の非課税枠をつくることができます。
これに加えてiDeCoや企業型DCを用いた投資非課税枠もあります。たとえばiDeCoに30歳から積み立てたとしましょう。勤務先に企業年金がない場合だと、月々の積立金額は2万3000円まで非課税です。年間だと27万6000円。65歳まで35年間積み立てた場合、総額は966万円です。第3号被保険者の妻も同様にiDeCoに加入して同額を積み立てれば、夫婦で1932万円の非課税枠がつくれます。
つまり新NISA+iDeCoを夫婦でフル活用すれば、合計で5532万円の非課税枠をつくることができます。
非課税枠がこれだけあれば、恐らく大半の人にとっては十分だと思われます。
金融広報中央委員会が毎年行っている「家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯]」の2021年調査結果分を見ると、世帯主の年齢別による金融資産保有額の平均値は、以下のようになります。
20歳代・・・・・・344万円
30歳代・・・・・・986万円
40歳代・・・・・・1235万円
50歳代・・・・・・1825万円
60歳代・・・・・・3014万円
70歳代・・・・・・2720万円
平均値の最大が60歳代の3014万円ですが、この平均値で見ても、5532万円には達しません。ましてや中央値で見ると、最も金融資産保有額が高いのは70歳代になりますが、それでも1500万円です。
このように、平均値や中央値から推察すると、恐らく新NISA+iDeCoを夫婦でフル活用した時の合計非課税枠である5532万円を超える金融資産を持っている人は、本当にごく一部に過ぎないと考えられます。
つまり、大半の人は非課税枠の範囲内で投資が出来るので、ここで金融所得課税の強化を持ち出したとしても、国民からはそれほど大きな批判が生じないかも知れないという考えが、岸田内閣にはあるのかも知れません。
事実、金融関係の方数名に話を聞いたところ、「新NISAと引き換えに金融所得課税の強化が必ず出てくる」というのが共通認識でした。ということは、2024年からスタートする新NISAについては、「いちいち口座を開設するのが面倒」などと言っているどころではなく、誰もが皆、それを開設するべきものと考える必要がありそうです。