財務の透明性を示せず、市場の不安材料にも

こうした取り組みから「仮想通貨最後の砦」とも目されるバイナンスだが、同社自身に財務の透明性がある経営とは言い難く、業界再生をリードする立場と矛盾しているともいえる。

そもそもバイナンスは証券取引所に上場していない未公開企業であり、特定の国において、金融システムを管理する規制当局に財務諸表などを開示する義務がない。加えて取り扱うのが国家の法規制を受けにくい仮想通貨。そのため中国など監視が厳しい一部の国を除き、各国当局に経営状況を報告してライセンスを得なくても、ある程度はサービスの提供ができる状況にある。

だがFTXの破綻後、仮想通貨市場において取引所の顧客資産管理に対する警戒感が高まり始めた。市場参加者から、仮想通貨交換業者に準備金の保有証明を求める動きが相次いでいるのだ。バイナンスも投資家から資金流出を避けるために、預かり資産の安全性を証明する必要が生じている。同社は2022年11〜12月の間に仮想通貨のウォレットアドレスの詳細を公開したり、国際監査法人マザーと連携したりして、財務健全性を示す取り組みを進めてきた。

しかし2022年12月16日、マザーは突如としてバイナンスを含む仮想通貨関連事業者への監査サービスを終了すると発表した。詳しい理由は明らかになっていないが、これは信頼獲得を図っていたバイナンスにとって大きな打撃になったといえる。ウォール・ストリートジャーナルをはじめ、各種金融メディアはバイナンスに対し、いまだに十分に財務状況を示せていないと指摘している。

さらに同時期にはロイターで、米司法省がバイナンスおよびCEOジャオ氏を刑事告訴する可能性についても報じられた。主な容疑は無免許で送金事業を行なったことや、マネーロンダリングへの関与などだ。ロイターの報道に対してバイナンスは「間違っている」と反論しているものの、明確な根拠は示せないままでいる。

バイナンスはFTX破綻により業界シェアを高めつつある一方、一連の報道を受けて、信頼性の低下や多額の資金流出という逆風にもさらされ始めている。今後、バイナンスについてさらなる疑惑が浮上すれば、仮想通貨市場もより一層低迷する可能性もある。