ライバルFTXの破綻で業界シェアをさらに拡大
冒頭で述べたFTXの破綻劇は、そんなジャオ氏の影響力が大いに関係している。2022年11月初め、FTXの財務健全性に懸念があると報道が流れると、ジャオ氏はSNSに「バイナンスが所有するFTXの取引所トークン(電子証票)をすべて手放す」と投稿。これはFTXが破綻し、FTX発行の資産がすべて無価値になる可能性を示唆していたといえる。
ジャオ氏の言動を受けて、投資家がFTXから資金を引き上げる動きが相次いだ。FTXが資金繰りに奔走するなか、バイナンスはFTXの支援を目的とした買収を提案するもわずか1日後に撤回。FTXの状況についてバイナンスが「当社の制御や能力を超える問題」と説明したことで、より一層FTXの経営危機を印象付け、破綻を強力に後押しすることとなった。
バイナンスにとって、FTXという強力なライバル企業が退場する結末となったわけだが、ジャオ氏がこれを意図して行ったとする見方も多い。結果的に、FTXに代わってバイナンスが投資家の受け皿となり、業界におけるバイナンス1強の構図がより強固となった。月次売買代金ベースで見ると、バイナンスと米国支社であるバイナンスUSDの占めるシェアは2022年12月18日時点で71%と、40%程度だった2022年初から急速に拡大した。
FTX破綻によって仮想通貨業界への信頼が揺らぐなか、バイナンスはスタートアップ支援など、業界再生への取り組みのため最大20億ドルを拠出する意志があると表明した。業界回復基金(通称IRI)の設立も発表し、すでに150社ほどの企業が拠出を希望している。仮想通貨交換業そのものだけではなく、業界再生への働きかけにおいても主導的地位を固め始めたのだ。