70代になって似合ってくる世界がある
私は70代の男性を羨ましく感じることがあります。
それなりにシワが刻まれ、髪の毛も白くなったり、髭にも白いものが目立つような男性が、着慣れたジャケットでバーの片隅に座っているようなときです。
もう長く通っている店の、いつも座っているカウンターなのでしょう。ゆったりとくつろいでいます。
夕刻、早い時間の寿司屋でも同じです。70代らしき男性が悠然と好きな寿司をつまみ、日本酒をゆっくりと飲んでいる場面に出くわしたりすると、「いいなあ」と羨ましくなります。
旅行もそうですね。若いころは慌ただしいスケジュールに追われていますから、新幹線で地方に出かけるようなときでも、窓の外をのんびり眺める気持ちにはなかなかなれませんが、70代と思しき年代の旅行客は違います。とてもゆったりと構えて窓の外の景色を眺めたり、本を読んだりしています。
そういうさまざまなシーンに共通するのは、一人だということです。
70代になると、一人が似合ってくるのです。
べつに寂しそうでもないし、拗ねているようでもないし、かといって気負いも緊張している様子もありません。ごく自然体です。一人でいることが様になっています。
若い世代はそうもいきません。同じことを一人でやってもどこか固くなっていたり、落ち着かなかったりします。そもそも周りから見て浮いた感じがします。要するに、一人が似合わないのです。
これが80代となると、そこに飄々とした雰囲気さえ生まれてきます。
杖を手にしたおじいちゃんやおばあちゃんが、馴染みの蕎麦屋さんでゆったりと蕎麦を食べている様子というのは、これもまた高齢にならなければつくれない独特の雰囲気があります。
老いることは悲観的なことばかりではありません。
老いることを何もかも否定的に受け止めるのも間違いです。
老いてはじめて似合ってくる世界や様になる世界もあります。そのことに気がつけば、格好いい70代でありたいという気持ちも生まれてくるはずです。
70代で死ぬ人、80代でも元気な人
和田秀樹 著
発行 マガジンハウス
定価 1100円 (税込)