今秋、炎上騒ぎが起きるなど耳目を集めた厚生労働省の年金改革案。その案は2つあり、前編では「マクロ経済スライド調整期間の一致」によって、年金給付の目減り度合が多くの世帯にとって平等に、抑制されることを見てきた。
後編では、引き続きニッセイ基礎研究所の中嶋邦夫氏の解説を基に、もう1つの改革案「国民年金納付の5年延長」案について見ていこう。
「国が多くの保険料を徴収したいから、5年延長する」は全くの誤解
国民年金の納付期間を5年延ばす――そう聞けば多くの人は、「国としては多くの保険料を徴収したいのだろうか?」と想像し、そこから「多くの保険料が必要ということは、年金財政がヤバいのでは?」と連想するかもしれない。
しかし、中嶋氏によると、そうした財政面はあまり関係ないという。
「むしろ狙いはもっとシンプルで、多くの人が65歳まで働くようになっている現実に、制度のほうを合わせようとしているのにすぎません」。さらに驚きのデータも示してくれた。「仮に国民年金納付の5年延長が実現し、年金財政における収入がアップしたとしても、それは現状のわずか1%ほどのプラスにしかなりません」。
すでにご存じの方も多いように、70 歳までの就業機会の確保を企業に求める「改正高年齢者雇用安定法」が公布され、60歳定年はすでに過去のものになりつつある。そこでもう1度思い出したいのが、前編でご紹介した「会社員の年金は2階建て」という構造だ。
例えば、60歳から65歳まで企業に勤める場合、その5年間は厚生年金の保険料を払う。それは当然、国民年金部分も含んだ保険料だが、いざ受給額の計算となると、基礎年金は20~60歳の40年間の納付月数で算出されるため、5年間払い込んだ保険料が基礎年金に反映されないのが現行制度だ(経過的加算の措置もあるが、それでも厚生年金に加入した期間のうち40年分までしか反映されない )。
報酬比例部分である厚生年金には65歳までの実績が反映されるにもかかわらず、基礎年金には反映されない部分がある。要はこの“不整合”ともいえる状況を改善し、多くの人が65歳、70歳まで働くこれからの社会に合わせて調整していくというのが、今回の改革案の狙いというわけだ。
一方で、この改革案には負担増への懸念の声がある。
「会社員の場合、すでに厚生年金を払っているので負担増は生じませんが、自営業の人は5年分払う年金が増えるので、確かに、100万円ほど“出費”が増えます」(中嶋氏)
ただし、その出費と引き換えに得られるものもあり、「65歳から受け取る基礎年金が増え、満額の場合は12.5%多く受け取ることができます」と中嶋氏は続ける。
また、払った年金分の“元を取る”という観点で考えても、5年分の“持ち出し”は10年基礎年金を受給すれば回収できてしまう。