2020年6月に公布されたDC法の改正(施行は順次)が、企業型DC実施事業主に与えた影響について「2022年DC担当者意識調査(速報値)」(以下「DC調査」と言います)から考察していきます。なお、考察項目は一部となっております。

運用の方法の除外方法の改善(2021年7月28日施行)

運用の方法(運用商品)の除外にあたっては、加入者等の3分の2以上の同意が必要で、かつ、「除外商品の購入停止」と「加入者が保有している除外商品の売却」が要件とされていましたが、法改正により「除外商品の購入停止」のみでも除外が可能となり、「売却を伴う除外」か「売却を伴わない除外」かについて、事業主が選択できるようになりました。

これを受け、DC調査で「ここ1年間での運用商品のラインナップ見直し」について確認した結果が(図1-1)のとおりです。全体の約16.7%(事業主数270社)が見直しを行い、その判断基準となったのが「カテゴリー内での不足等」(23.7%)や「提示金利や過去の運用実績」(20.0%)、「手数料」(17.0%)となっています(図1-2)。

出所:NPO 法人確定拠出年金教育協会

また、商品カテゴリーとしては「ターゲットイヤー型のバンスファンド」が51.5%と最も多く、次に外国株式インデックス型(33.3%)、不動産投資型(26.7%)・日本株式インデックス(24.4%)<※複数回答としているため合計≠100%>と続きます(図2)。この傾向は、法改正による商品除外の緩和が直接的な要因ではないと考えますが、DC実施事業主(あるいは運営管理機関)としては、加入者最優先で新たな運用商品を追加し、その後、加入者の動向を考慮しながら除外を検討するための第1段階とも考えられます。

 出所:NPO 法人確定拠出年金教育協会

 

DC加入可能年齢の拡大(2022年5月1日施行)

企業の高齢者雇用の状況に応じたより柔軟な制度運営を可能とすべく厚生年金被保険者(70歳未満)であればDC加入者とすることができるように改正されました(ただし、事業主によって加入できる年齢を定めることは可能)。

この改正を受け、DC調査で実施事業主の定年延長・資格喪失年齢の引き上げ状況を確認した設問では、「当面は定年・資格喪失年齢ともに据え置き」が全体の49.0%(図3)と約半数を占める回答結果となりました。DCの資格喪失延長は、企業の定年延長や再雇用制度との関わりが深い内容であり、改正されたからすぐに対応するという事柄ではないため、DCへの反映を検討する優先順位としては低いと想定されます。なお、すでに資格喪失年齢を引き上げた事業主(413社)の、引き上げ後の資格喪失年齢については65歳が約75.3%(311社)となっています(図4)。

 

出所:NPO 法人確定拠出年金教育協会 

 

企業型DC加入者のiDeCo加入の要件緩和(2022年10月1日施行)

2022年10月から、企業型DCの事業主掛金とiDeCoの掛金との合算管理の仕組みを構築することで、企業型DCの加入者が規約の定めや事業主掛金の上限の引き下げがなくても、iDeCoに原則加入できる改正については、全体の54.2%(359社)が「特に何もしていない」と回答(図5)しています。

一方で、改めてマッチング拠出の導入を検討(6.4%)、選択制DC導入を検討(4.8%)、企業型DCの商品見直しを検討(8.2%)との回答もあり、現在実施している企業型DCの制度内容や運用商品を活性化させる動きも、少なからずあります。

出所:NPO 法人確定拠出年金教育協会

今回の法改正を受け、実施事業主としても、iDeCoの同時加入を単に受け入れるだけではなく、すでに自社で導入済のDC制度スキームを維持しつつ、加入者自らが、将来に向け自助努力で資産形成が可能となる選択肢の拡大や、DC制度の再構築を検討する動きが活発化していると考えられます。

最後に、2022年のDC調査において「現時点におけるDC制度に関する一番の悩み(課題)」について確認した結果として、継続教育に関する事項(24.3%)、加入者の無関心(20.1%)に続き、法改正への対応(16.9%)があげられています(図6)。

出所:NPO 法人確定拠出年金教育協会

2022年DC調査では、本記事で紹介した法改正に関する内容の他、「2016年DC法改正にあたっての対応(運営管理機関の評価)」や「リモート環境下における継続教育の実施状況」など、各DC実施事業主の制度運営状況や担当者の意識等を確認をしております。

2022年12月~2023年1月には公表する予定ですので、DC制度における課題解決のための参考として、また、今後の法改正に向けた対応や継続教育への取り組みにあたり参考にしていただければ幸いです。