DCではインフレ・リスクが加入者に転嫁されてしまう
この簡単な分析から分かることは大きく2つ。1つは、DCでは想定利回りを目標リターンとすることが多いですが、それはインフレがない世界で退職一時金と同金額にするために必要なことではあるものの、インフレ調整後の退職一時金と同じ価値を達成するには十分ではないということ。インフレ調整後も同じ価値にするには、想定利回りにインフレを加えたリターンを達成しなければならず、インフレが高い場合においては、目標達成へのハードルは相当上がってしまうのです。
もう1つは、インフレ率と賃金上昇率が同水準であれば、退職一時金には仕組み上、インフレ・ヘッジ機能が組み込まれており、従業員がインフレ・ヘッジを考える必要はありませんが、DCには仕組みとしてのインフレ・ヘッジ機能がないため、そのリスクはDC加入者に転嫁されていると言えることです。
となると、大事なのは「DC加入者がインフレ・ヘッジをするのに十分な運用商品がラインアップされているか」という点ではないでしょうか。残念ながら、現在のDCの一般的な商品ラインアップをみると、インフレ抵抗力があるものが多いとは言えないように思います。
これに対して、「インフレ・ヘッジは簡単で、単に株式を持っていれば十分ではないか」との反論もあるかもしれませ。しかし、実際に景気局面別のシャープ・レシオを見ても、株式はディスインフレ局面のみならず、インフレ局面でも苦戦しています。インフレが高まる局面では、「リアル・アセット」と呼ばれる不動産やエネルギー関連株式、コモディティ先物等が効果を発揮しているのです。
なぜ、このようなことになるのかと言えば、株式はインフレに対して必ずしも感応度が高くないからです。インフレによって金利が上昇する場合、評価モデル上の割引率が上がるために、株式のバリュエーションは下がってしまいます。むしろ短期的には、インフレに対する感応度は高いどころかマイナスなのです。