皆さんもご存じの通り、インフレは対岸の火事ではなく、日本にも影響を及ぼし始めています。そんな中で「インフレから資産を守る」という、資産運用において最低限達成しなければならないことへの関心が高まっているように感じます。

一方、確定拠出年金(以下、DC)では、投資教育において「想定利回りを実現すれば大丈夫」とのアドバイスがなされていますが、果たしてこれでインフレにも対応できるのでしょうか? 今回はインフレとDCの想定利回りの関係性について考え、世代ごとのインフレ・ヘッジの在り方についてまとめたいと思います。

インフレ下では想定利回りを達成しても、実質的に資産が減少

ここで、退職金を世の中の平均水準に近い2000万円とし、退職一時金のすべてがDCに移行されている場合を考えてみます。想定利回りは2%(今の企業型DCの平均に近い利回り)とし、賃金には令和3年賃金構造基本統計調査のデータを用いました。この前提で仮想のDCを設計し、インフレが1%と2%のケースでDCの残高がどう変わるのかをみてみます。また、移行前の制度である退職一時金におけるインフレ調整後の退職金額との比較も行いました。

退職一時金においてはインフレが1%の場合、インフレによって退職金額算定のベースとなる給与が上がるため、インフレ調整後の退職一時金は2862万円まで増加しますが(計算の詳細は割愛)、DCで元本確保型に放置した結果、運用リターンが0%だった場合には、1693万円と退職一時金のわずか59%にしかなりません。低リスク・低リターンで手堅く運用をした結果、想定利回りである2%を達成した場合にはベースとなる給与が増えて拠出額も増えるため、DC残高は2391万円に増えますが、それでもインフレ調整後の退職一時金の84%にしかなりません。

想定利回りの2%にインフレの1%を足して運用リターンが3%になったときに、はじめてインフレ調整後の退職一時金と同水準の残高になりました。インフレが2%の場合も同様で、想定利回り2%にインフレ2%を足した4%の運用リターンを得て、はじめてインフレ調整後の退職一時金と同水準になるのです。