長期保有の本当のリスクがとれるのは個人投資家

私が「売らなくていい企業しか買わない」運用を始めるに際して立証したかったのは、「株式を頻繁に売買して値動きを取りに行くのではなく、継続的に利益を増やしてくれる企業のオーナーになれば、保有企業の価値増大とともに自身の資産価値を増やすことが出来る」ということでした。

これは理論的には常識と言えるほど正しいのですが、当時そんなことは頭ではわかってはいても、機関投資家向けに実行しているファンドは、皆無に近い状況でした。だからこそ、自分の運用を通じて、それを立証したいと考え、まずは機関投資家向けの運用をスタートさせたのです。

ただ本来、その運用哲学や運用商品を必要としているのは、機関投資家ではなく個人です。機関投資家というと生命保険会社や企業年金等が代表的存在ですが、いずれも運用金額は大きく、自分のお金を運用しているわけではありません。生命保険会社は保険を掛けている大勢の個人から集めた保険料、企業年金は企業で働いている人たちの退職金を増やすために、投資を行っています。つまり、生命保険会社も企業年金も、個人の代弁者に過ぎません。

もっと言うと、投資家として本当に長期投資のリスクを取れるのは、機関投資家ではなくむしろ個人投資家です。機関投資家といっても結局は皆、会社勤めですから、3年に1度くらいの頻度で異動があります。いくら「長期投資をやるんだ」と言っても、3年が経つと担当者が変わり、前任者とは全く違う運用を行ったりすることも、往々にして起こります。また、そもそも機関投資家の多くは、自身の企業決算があるため、ファンドの含み益を収益認識するためには売却する必要が出てきます。機関投資家が長期投資を行うには相応の覚悟と仕組み化が必要なのです。それに対して個人には決算が存在しません。つまり個人は本来的には所謂「利益確定」をする必要がないので、長期投資が可能であるという切り口では、個人投資家の方が機関投資家よりも決定的に有利なのです。

ところが、そのメリットを使うどころが「利益確定」をすることで、長期投資の最大のメリットである「企業価値の複利増大」を殺してしまう勿体ないケースが多いようです。また、個人が投資を行う仕組みとしては、すでにiDeCoやつみたてNISA、あるいは企業DCなど揃っているものの、個人が自分のお金を、自分の判断で投資先を選んで資金を投じるのに必要な情報や、長期投資に相応しい個人向け投資信託が足りていないのが現状です。結果、2000兆円ある個人金融資産の50%超が、現預金に偏在しています。

でも、それだけの個人マネーが現預金に偏在し、行き場を失っているのは、あまりにももったいない話です。