指導要領に明記された「資産形成」教育のインパクト
2022年度高等学校学習指導要領の改訂により、ついに学校で金融教育がスタートする。今後、日本の高校生は、家庭科の中で資産形成についても学ぶことになる。
家庭科の指導要領では家計管理に必要な知識として、預貯金や民間保険に並んで、「株式」「債券」「投資信託」の基本的なメリットやデメリット、「資産形成」の視点に触れるとされており、学校教育において具体的なリスク資産にまで踏み込んだガイドラインが示されたのはかなり画期的なことだ。
これに備え、金融庁では数年前から教員向けの出張セミナーを積極的に実施、投資信託協会でもサイト内に「学校で学ぶ資産形成」コーナーを立ち上げるなど、金融業界にはウェルカムな空気が満ちている。
低成長時代になっても日本人の投資に対する関心は欧米先進国に比べて極端に低く、いまだ多くの人が大量の現金を預貯金のまま保有し続けている。政府や業界関係者の熱い視線が金融教育に注がれるのは当然のことだろう。
一方で、学校側の動きは、今のところ積極的とは言い難い。一部の学校で金融教育プログラムなどが導入されているものの、ほとんどの高校では民間保険の会社から講師を呼んできて、保険に関するセミナーを実施する程度。これまで教育改革には敏感に反応してきた私立高校にしても、あまり積極的に取り組もうという姿勢が見えてこない。
もともと学校現場には「お金のことを学校で教えるなんて…」という意識が根強く、保護者の反応を恐れてセンシティブになっている事情がある。講師を招いての講演会などで多少啓発教育をやっていたとしても、「金融教育に積極的に取り組んでいます」とは、あまり声高には言いたくないのが現状のようだ。
金融教育への誤解が学校をひるませている!?
学校が及び腰になる背景にはお金の話は家庭や学校ではしたくないという日本人のメンタリティも大きく影響しているが、文部科学省の金融教育に対するメッセージが正しく伝わっていないという面もあるように思える。
これは、2020年に小学校においてプログラミング教育が導入された時にも見られた現象で、この時にも学校現場では(特に公立において)「小学生からプログラムを教えなくても…」という雰囲気があったのではないだろうが。
逆に保護者においては「学校でプログラムを教えてくれる」「就職に役立つ」という期待が高まり、低年齢から社会に役立つ最先端の技術を学ばせることがプログラム教育の目的だという誤解を招いてしまった。
しかし、本来、学校で社会のアップトゥデイトな事項を学ぶことの目的は、リテラシーの向上にある。プログラミング教育の場合は、ITがこれだけ発達しているのだから、電気の仕組みやコメ作りを理科で学ぶように、小学校のうちに基礎的な仕組みを学ばせておこうというのが、文部科学省の本来の意図であった。
同じように、今の時代に学校教育で金融を扱う目的は、金融リテラシーの向上であり、先生や保護者が恐れている(と予想される)ように「株や債券の有利な買い方を学ぶ」「お金の儲け方を学ぶ」ことではない。金融のシステムや仕組みを知り、そこがどう実社会と結びつき、自分の生活に紐づけられていくか。そのことを学ぶことが、本来の金融教育であるはずだ。
そして、資産形成教育とは資産運用で儲ける技術を学ぶことではなく、預貯金を含む自分の資産について正しい認識をもち、お金と上手につきあっていくための知識を身に着けていくものではないだろうか。