政府の給付金と株価上昇が資産に影響
なぜ、この1年間で個人金融資産が大きく膨れ上がったのでしょうか。第一に新型コロナウイルスの影響があったといえます。経済活動の停滞で生活苦に陥るリスクを軽減させるため、政府が配った各種給付金の資金が家計部門に流入するのと同時に、外出控えや消費控えによって家計支出が抑え込まれ、現預金の額が大きく増えました。
2020年9月末から2021年9月末までの1年間で、個人金融資産の総額は107兆円増加しています。個人金融資産の内訳は現預金のほか、債務証券、投資信託、株式など全部で6つの項目に分かれていますが、それぞれの金融商品が、この間にどのくらい増加したのかを計算すると、次のようになります。
現預金・・・・・・38兆円増加
債務証券・・・・・・1兆円増加
投資信託・・・・・・18兆円増加
株式・・・・・・37兆円増加
保険など・・・・・・9兆円増加
その他・・・・・・4兆円減少
言うまでも無く、この1年で最も残高が増えた金融商品は現預金でした。この結果、現預金の総額は1072兆円になり、全体に占める比率が53.6%にもなっています。
次に、個人金融資産が増加したもう一つの要因として、株式の増加をあげることができます。何しろ現預金に次いで増加額が大きく、しかもその差は1兆円しかありません。まさに僅差です。
ただし、投資信託と株式に関しては、純粋な資金フローとしてこれらのマーケットに新規資金が流入したというわけではなく、株価上昇によって評価額が膨らんだことが影響しているようです。株式の残高の対前年同期比を見ると、コロナショックで株価が大きく下落した2020年3月は、22.4%減と大幅に減少しました。
この傾向は、株価の値動きがさえなかった2020年中続き、同年はすべての期において対前年同期比マイナスでした。それが、2021年中は株価の回復に伴い、3月末の対前年同期比が42.6%増、6月が29.8%増、9月が28.6%増となっています。結果、2021年9月末の株式の残高は218兆円になりました。
投資信託も、マーケットの回復にともなって残高を大きく伸ばしました。2021年に入ってからの対前年同期比は、3月末が33.9%増、6月末が28.3%増、9月末が24.0%増です。投資信託に関しては、マーケット回復にともなう評価益の増加もありますが、この間、つみたてNISAの口座開設が20代、30代、40代を中心に大きく伸びたことも寄与したと考えられます。
では、来年3月に発表される2021年12月末の数字で、個人金融資産は2000兆円台に乗せるのでしょうか。
これは、恐らく乗せることになるでしょう。2000兆円に乗せるには、あと1689億円です。政府が18歳以下の子供に10万円相当を現金とクーポンで支給する子供給付金のうち、現金5万円部分が年内給付される予定なので、それが年内に預貯金口座に入金されれば、12月末の現預金残高が伸びます。
ただし、それはマーケットで何事も起こらなければ、の話です。この原稿を書いているのが12月20日で、残すところ年内の営業日数は8営業日になりますが、この間に株価が暴落するようなことになると、株式や投資信託の評価損が足を引っ張り、全体の個人金融資産残高が減少に転じることも考えられます。