物価だけが上昇する「悪いインフレ」の恐れも

加えて、政府・日銀が意図的に円安政策を採ってきたことも、実質実効為替レートを押し下げました。実質実効為替レートが上昇すると、海外からの製品・サービスを割安に購入できるものの、輸出には不利になります。かつて輸出依存度の高かった日本の場合、円高が進むたびに、輸出企業の業績悪化懸念から日本全体の景気が悪くなる「円高不況」を懸念する声が強まり、円売り介入を強く推し進めてきました。

しかし昨今の日本経済は、円高が進んだとしても不況になりにくい構造になっています。なぜなら日本企業の生産拠点の多くが海外に移転したからです。しかも、国内総生産(GDP)に占める製造業の割合が年々低下しており、現在は20%程度に過ぎません。それはつまり逆の見方をすると、円安が進んだからといって国内景気の下支えになりにくいことを意味します。にも関わらず、政府・日銀は円安政策を強く推進してきたため、むしろメリットよりもデメリットが浮上してくる恐れがあります。

前述したように、実質実効為替レートの低下は円の購買力低下を意味します。このまま円安が進めば、実質実効為替レートはさらに低下し、円の購買力はますます落ちていきます。それは海外から資源、食糧の多くを輸入している日本にとって、かなり深刻な問題です。

今のところ消費者物価指数は落ち着いて推移していますが、このまま円の購買力が低下し続けると、どこかの時点で円の価値が低下した分を、消費者物価に転嫁せざるを得ない状況になるでしょう。それは好景気によって物価が上昇する「良いインフレ」ではなく、円の価値が低下することで物価が上昇する「悪いインフレ」に他なりません。景気はそれほど回復していないのに、物価だけが上昇していく悪性インフレに陥る恐れがあるのです。それは日本で生活する私たちにとって、生活水準の低下を意味します。

それをヘッジするにはどうすれば良いのでしょうか。

非常に難しい問題ですが、少なくとも個人資産においてはインフレリスクをヘッジできる資産を持つしかありません。日本企業のなかでも海外売上比率の高い企業の株式や、米国企業の株式、あるいはそれらを組み入れた投資信託などを保有することによって、多少なりとも円の購買力低下というリスクをヘッジできるはずです。