子のために資産を残す場合は、まず遺言作成を!

ただ、お父様である一郎さんが一郎さんの資産を使って太郎さんへ残すことは可能です。ゆくゆくは保険商品や家族信託を使った対策もおすすめですが、こちらはもう少し先に考えていきましょう。

それよりも、もっとしておいた方がいいことがあります。お父様である一郎さんの遺言作成です。一郎さんは60歳になったばかりで、まだまだ亡くなることは考えられないかもしれませんが、万が一、一郎さんに何かあった時、中田家では大変なことが起きます。

中田家で考えられるリスク

通常は、人が亡くなった場合、遺言がなければ相続人の間で話し合いをし、その話し合い通りに遺産を分割することになります。話し合いがつかない時は、家事調停に持ち込まれ、話し合いになりますが、その際は、法定相続分が基準となります。例えば、両親がいて二人の子ども(A・B)がいる家族を考えましょう。そのうち父親が亡くなった場合の家族の法定相続分は、母親1/2、子どもAが1/4、子どもBが1/4となります。

では、中田家の場合はどうなるのでしょうか? 一郎さんが突然亡くなった場合、遺言がないと、話し合い通りに遺産分割をすることができません。なぜならば、知的障害のある太郎さんが遺産分割協議に入れないからです。その場合は、太郎さんに特別代理人を付ける必要があります。そのために、家庭裁判所に太郎さんの特別代理人選任の申し立てをして、遺産分割をしていきます。この時に注意が必要なのは、特別代理人はお母さまである香織さんは太郎さんの特別代理人にはなれないこと。なぜなら、同じ一郎さんの相続人であるため、利益相反になるからです。なので、太郎さんの特別代理人は、相続人でない人を選任する必要があります。

さらに問題なのは財産の割合です。特別代理人が選任できたとしても、太郎さんの利益を損なうことはできないので、結局、太郎さんに法定相続分の遺産を相続させることになります。一郎さんとしては、太郎さんの面倒を見てもらう次郎さんに少し多く財産を残したいと思っていたとしても、思うように財産を残してあげることができないのです。しかも、これらの手続きはたとえスムーズに行えたとしても、数カ月から半年以上はかかってしまい、もしかしたら生活に支障をきたしてしまうことも考えられます。