物価が上がらないカラクリ。企業努力で物価を抑制
では、なぜ消費者物価指数は上昇しないのでしょうか。これは個人消費が抑制されているからです。新型コロナウイルスの感染拡大はやや収まりつつありますが、「リベンジ消費」と言われるほどの爆発的な個人消費の盛り上がりは見えてきません。
このように個人消費の足腰が弱い状態で、企業が原材料価格の上昇分を製品・サービス価格に反映させたら、消費者はさらに財布の紐を強く締めてしまい、モノやサービスの売れ行きが落ちてしまいます。そのため、企業努力によって原材料価格の上昇分を製品・サービス価格に反映させないようにしているのです。
問題は、この堤防がいつ決壊するかでしょう。企業努力といっても無限にできるものではありません。
世界に目を向けると原油だけでなく、主だった国際商品の先物価格で構成されているCRB指数や半導体、アルミニウムや銅などの価格が軒並み急騰しています。
今はやや落ち着いていますが、シカゴで取引されている木材先物も一時は急騰して「ウッドショック」などと言われたこともありました。ちなみに木材先物は2021年5月にピークをつけた後、同年8月にかけて急落したものの、そこから再び上昇機運を強めています。
世界的な物価上昇の背景には、ワクチン接種が進むなかで経済活動が正常化に向けて動き出し、一度、絞り込んだ原油の生産が追い付かず、人手不足が深刻化して賃金が大きく上昇していることや、電力不足なども遠因とされています。
この世界的な物価上昇が、一時的な供給不足を原因とするなら、どこかで正常化するでしょうが、なにがしかの構造要因で引き起こされているものだとしたら、企業物価指数の上昇圧力はしばらく続き、消費者物価の引き上げにつながる恐れがあります。
日本経済の現状は好景気と言うにはほど遠いのが実態です。こうしたなかで企業物価の上昇が消費者物価の上昇に波及すれば、「不況下の物価上昇」、いわゆるスタグフレーションを引き起こす恐れがあります。スタグフレーションは株価にとってネガティブ要因になるため、これから先の物価動向は注視しておく必要があります。