これまで積み立てた資産と将来積み立てる資産のバランス

ここで2人の投資家について考えてみます。1人は積立投資を始めたばかりで金融資産がまだ10万円の人(Aさん)、もう1人は積立投資を始めてかなりの年月が経っており、すでに金融資産が1000万円になっている人(Bさん)です。ともに毎月1万円(年間12万円)を積み立てるとします。この2人は、ここから先5年間投資するのですが、不運なことに最初の年にいきなりリーマンショックと同程度のマイナス40%もの大きな下落を被り、その後4年間は順調に毎年10%のリターンを獲得したとします。

Aさんの場合、5年間投資をしても当初の10万円は元本を回復できていませんが、積立によって割安な時期に追加投資ができた結果、積立投資の残高が大きく増え、最終的には資産が81万円まで増えています(投資元本は70万円なので、1.15倍に増加)。一方、Bさんの場合には、当初の1000万円はAさんと同様、元本割れですが、そのマイナスを積立投資からのプラスで補うことができず、最終的に950万円までしか回復できていません(投資元本は1060万円なので、0.90倍に減少)。

ここでは少し極端な例を用いましたが、この簡単なシミュレーションからも、これまで積み立てた資産と将来積み立てる資産のバランスが重要な点がご理解いただけたと思います。改めて考えてみると、Aさんは若い人、Bさんは定年退職間近の人と言い換えることができませんか? つまり若い人にとっては、積立投資で100%株式に投資をしても大きな問題にはならないのですが、これまでの積立投資ですでに多額の金融資産を有している定年退職間近の人にとっては、株式から生じる大きなリスクが積立投資のメリットを上回ってしまうのです。

実際にこのリスク許容度と投資内容のミスマッチが最悪の形で顕在化したのが2008年のリーマンショックでした。特にアメリカでは、確定拠出年金において定年退職まで高い株式比率で積立投資をしていた人たちが多く、彼らは一瞬にして資産を失ってしまいました。もちろん、そのまま投資を継続した場合には、その後、十分に回復できたと思いますが、怖くてやめてしまった人は最悪の結果となったのです。