ここ数年、株式市場が好調だったこともあり、若年層を中心に、つみたてNISA(少額投資非課税制度)やiDeCo(個人型確定拠出年金)を通じた積立投資の件数が大きく増加しています。実際、2021年3月末時点のつみたてNISAは362万口座(前年同月:220万口座、金融庁)、iDeCoは194万口座(前年同月:156万口座、国民年金基金連合会)であり、数字を見ても急拡大は明らかです。

積立投資だからと言って、皆がリスクを取れるわけではない

積立投資は、老後資金や教育資金のようにかなりの金額を中長期で形成する場合、非常に有効な投資手法ですから、これを始めた人が多いという事実は、少し前に話題になった「老後2000万円問題」のような社会問題を未然に防ぐという意味でも歓迎すべきでしょう。ただし、自分が期待するリターンを得るためには、どんな資産で積立投資を行うかが極めて重要になります。

一昔前ならば、定期預金で積立をしていた人も多かったと思います。1990年代前半くらいまでは、定期預金の利率が5%以上の時もあり、無リスクでしっかりと増やすことができました(「72の法則」を使えば、72÷5≒14年くらいで倍になっていた!)。でも残念ながら、今はそんなおいしい話はありません。5%程度のリターンを獲得するためには、株式のようにリスクはあるけれどリターンが期待できる資産に頼らざるを得ません。となると大事な点は、株式にどのくらい投資をすればいいのか、ということです。

一方、積立投資の投資対象については「シンプルに株式に投資していれば十分」との意見をよく聞きます。積立投資は通常、定時定額で株式や投資信託を購入するため、「たとえ市場下落で価格が下がったとしても、むしろそれは購入対象を安く買える絶好の買い場であり、心配する必要がない」との主張や、「むしろ変動性が高いほうが割安・割高局面が顕著に表れるため積立投資に最適」といった意見もしばしば耳にします。実際、金融業界のプロと話をしていても、このような背景から「積立投資は株式に投資すれば十分」と断言している人もいるようです。

でも、本当にそれは正しいのでしょうか? 誰にとっても、どの世代にとっても、積立投資ならば株式のみに投資することが正解なのでしょうか?

確かに株式投資のリターンは他の資産クラスと比べて高いのは事実です。また、積立投資では、投資対象の価格が下がったら、下がった価格で割安に追加投資しますので、平均購入単価が下がり、下値抵抗力が高まるのも事実です。

もっとも、それはあくまで、ここから先に積み立てるお金の話です。これまで積み上げた分については、当たり前ですが、価格下落によってダメージを被ります。特に積立投資を始めて何十年も経過している人は、すでに多額の資産が形成されていることでしょう。このような投資家が、この通説を信じて市場下落を嬉々として喜んでいるとすれば、それは大きな間違いです。市場下落後、しばらくしても資産がなかなか戻らないと認識したときには、「時すでに遅し」の可能性もあります。