情報の非対称性が顧客不在の金融リテールビジネスを生む

なぜこのような原則が策定されることになったのかというと、金融機関と利用者である個人との間にある「情報の非対称性」が極めて大きく、顧客メリットを無視した商売がまかり通ってきたからです。

かつて投資信託会社といえば、大半が大手・準大手証券会社の子会社でした。「投資信託会社の社長は親会社である証券会社の出世競争に負けた者に与えられるポスト」とさえ言われたくらいで、それがどういう状況を招くのかは推して知るべし、でしょう。

事実、投資信託は証券会社の手数料稼ぎの手段にされてきたのです。新規ファンドを設定する際、信託報酬や販売手数料を決めるのに、投資信託会社よりも親会社である証券会社の意見が重視され、そこに「ファンドの特性から考えて、顧客にとって合理的な料率はいくらなのか」といった議論が介在する余地はほとんどありませんでした。

これは本当に大昔の話で、もう時効だから書いてしまいますが、私が業界紙の記者だった当時、10社程度あった準大手証券会社系の投資信託会社の企画担当者が定期的に開く呑み会がありました。その場で、「うち、今度こういうスキームのファンドを立ち上げるんだけど、お宅の同じようなファンドの信託報酬はいくら?」などと聞いて、それを参考にしながら親会社との間で調整するという一幕もありました。まさに顧客不在の業界談合です。

証券会社の子会社である投資信託会社が、ファンドに組み入れる株式や債券の売買発注を親会社中心に行うということも、かつてはまかり通っていました。子会社である以上、親会社のために働くのは当然とばかりに、より多くの手数料が落ちるように協力させられていたのです。それは受益者に対する忠実義務違反になります。

もちろん今は、運用報告書に「利害関係人との取引状況」という項目があり、利害関係人である親証券会社に発注した比率の記載が義務付けられており、利害関係人に対して極端に偏った売買発注はできなくなっています。

投資信託の回転売買などは、つい最近まで行われていました。顧客が保有している投資信託を短期間で解約させて、別の投資信託に乗り換えさせれば、販売金融機関にはどんどん販売手数料が落ちていきます。

いずれも実際に行われていた話です。こうしたことが重なり、投資信託をはじめとする投資商品に対する個人の不信感が募っていきました。