47万円が分かれ道!? 多く稼ぐことで年金が一部カットされる仕組みとは

65歳から70歳までは会社役員で厚生年金加入を続けられるとのこと。70歳までは役員報酬を受け取るため、確かに老齢年金(老齢基礎年金、老齢厚生年金)は70歳まで受け取る必要はないかもしれません。そうなると、退任した70歳から繰下げで受給を開始したいとお考えになるのも自然なことでしょう。

ただ、65歳以降の報酬が高いと老齢厚生年金は繰下げで増えにくくなってくるという、あまり知られていない盲点もあります。その点について解説していきます。

田所さんの役員報酬は月100万円。100万円の場合、厚生年金保険制度上の標準報酬月額は65万円と計算されるのですが、まず、65歳~70歳まで役員報酬を月額100万円受ける場合(A)と、標準報酬月額で65万円の半分・32万円まで役員報酬を下げた場合(B)の、70歳繰下げ受給額の比較がこちらです。

筆者作成

両者を比較してみると、5年間高い役員報酬を受け取っているAのほうが、70歳以降の年金受給額が少なくなることになります。なぜでしょうか。

繰下げ受給は1月につき0.7%増額が可能と言われ、5年繰下げ(70歳受給開始)であれば42%増えると言われています(数式としては、0.7%×12カ月×5年)。

そもそも、老齢厚生年金は①報酬比例部分、②経過的加算額、③加給年金(ただし、今回の相談者は加給年金の受給資格に該当しないので考慮しない)の合算で成り立っています。

しかし、老齢厚生年金のうち報酬比例部分については、月額の報酬比例部分と会社から受け取る役員報酬(標準報酬月額)で合計47万円を超えると、超えた分の2分の1がカットされる仕組みがあります(在職老齢年金制度と言います)。

65歳時点での報酬比例部分の月額14万円(年額168万円)+標準報酬月額65万円で、合計79万円となりますので、47万円を32万円超え、その2分の1、つまり16万円の年金がカットされる計算です。報酬比例部分の年金は元々月額14万円ですから、結果、65歳から70歳まで5年間の各月で全額カットされることに繋がります。

繰下げせず、65歳から受け取ったと仮定して、年金が5年間全額カットされ1円も支給されない計算となる場合は、報酬比例部分についての繰下げ増額は1円もなく、増額率は0%となります。

非常に複雑ですが、一言で言いますと、65歳以降の報酬が高いと老齢厚生年金は繰下げで増えにくくなっています。ここが65歳で会社を退職するご友人たちと大きく異なる点です。

残りの年金、経過的加算額(年額6万円)と老齢基礎年金(年額72万円)は在職老齢年金制度の対象外ですので、こちらの合計78万円については42%の増額が可能で、合わせて約111万円(78万円×142%)の年金となります。また、65歳から70歳まで厚生年金加入分(この部分は元々繰下げによる月0.7%の増額なし)が20万円増えます。

70歳で退任すると、年金は支給されるようになりますが、結果、Aの場合の年金額は、老齢基礎年金+経過的加算額が111万円程度、報酬比例部分が188万円(168万円+20万円)、合計で299万円となります。

一方、Bの場合、47万円の基準額以下(14万円+32万円≦47万円)となります。その場合は、70歳繰下げで報酬比例部分168万円全額が42%増額、合計238万円程度(168万円×142%)となり、さらに65歳から70歳まで標準報酬月額32万円で厚生年金を5年掛けた分として10万円が増えますので、合計248万円の報酬比例部分となります。老齢基礎年金・経過的加算額(70歳繰下げ)111万円と合わせると359万円となります。

つまり、田所さんのおっしゃる「年金を繰下げ受給すれば年金はかなり増額される」という想定については、今のペースで役員報酬を受け取った場合、残念ながら「大きくは増えない」ということになります。