投資信託の販売を止めてしまった松井証券

今から23年ほど前のことですが、松井証券が投資信託の販売手数料を大幅に引き下げると発表した時、証券業界を中心にものすごい反発の声があがりました。

当時、松井証券は兜町に拠点を置く一地場証券であり、小さな証券会社でしたが、先代の松井道夫氏が社長に就任したことで、業界の慣習にとらわれがちな大手、準大手証券会社ではできないような新機軸を次々に打ち出してきました。1996年には、株式の保護預かりに掛かっていた手数料を撤廃。立て続けに店頭株式(現在のJASDAQ)の売買手数料を半額にしました。

当時、上場株式の売買手数料は法律によって、どの証券会社で売買しても同率とされていましたが、店頭株式はその対象ではありませんでした。そうであるにもかかわらず、いわゆる業界慣習によって店頭株式も各社同率の売買手数料を適用していたのです。そこに風穴を開けたのが松井証券でした。

その流れで松井証券が1998年に打ち出したのが、「投資信託の販売手数料を大幅に引き下げる」ことでした。

当時、投資信託の販売手数料は、どの証券会社も横並びでした。多くの投資信託が特定の販売金融機関でしか扱われない「専用ファンド」だったため、競争原理が働かなかったのです。そして投資信託の販売手数料は、販売金融機関にとって重要な収入源でした。

こうした既得権益が減ることを恐れた大手・準大手証券会社は、松井証券が掲げた投資信託の販売手数料引き下げに反発。しかも当時の投資信託会社は大半が大手・準大手証券会社の子会社でしたから、松井証券としては販売手数料の引き下げを強行できない状況に追い込まれました。結果、松井証券は「高い手数料を取るくらいなら投資信託は販売しない」として、2016年までいっさい投資信託を販売しなかったのです。