顧客本位とは顧客が実現したい資産運用に応じた選択肢を提供すること
「顧客本位の業務運営」という言葉が金融業界に定着して久しくなりました。その一方で、多くの金融機関では、「顧客本位=低コスト商品」や「顧客本位=インデックスファンド」という考え方が広がっているように感じます。
確かに、コストの低いインデックスファンドは多くの投資家にとって合理的な選択肢です。実際、ネット証券では世界株式や米国株式のインデックスファンドへの資金流入が続いており、資産形成の主流となっています。しかし、本当に顧客本位とはインデックスファンドを提供することだけなのでしょうか。
資産形成を効率的に進めたい顧客もいれば、安定的な収益を重視する顧客もいます。また、将来の成長分野への期待をポートフォリオに組み込みたい顧客もいれば、市場平均とは異なる運用成果を求める顧客もいます。つまり顧客本位とは、顧客が実現したい資産運用に応じた選択肢を提供することです。その視点に立つと、アクティブファンドの見え方も変わってきます。
現在の投信販売市場の主流はインデックスファンドです。ネット証券では世界株式や米国株式のインデックスファンドへの資金流入が際立っています。一方、対面販売を主体とする銀行や証券会社でもインデックスファンドは重要な存在ですが、それだけではありません。半導体関連株ファンドやAI関連ファンドをはじめ、アクティブファンドも一定の販売実績を維持しています。
インデックスファンドの販売傾向は、この3年ほど大きく変わっていません。一方、アクティブファンドでは、一部の毎月分配型ファンドを除き、販売額上位の商品が比較的短期間で入れ替わる傾向が見られます。足元では、半導体関連株ファンドが人気を集めています。
アクティブファンドの人気商品が変化するのは、市場環境の変化に伴い注目される業種やテーマが変わる以上、ある意味では自然なことです。人気のある商品を販売すること自体は、決して悪いことではありません。問題は、そのファンドを保有する理由が「最近よく上がっているから」「人気があるから」といったものにとどまってしまうことです。
例えば、半導体関連ファンドのパフォーマンスが好調な時期には、「AI需要の拡大」「半導体不足」「データセンター投資の増加」といった話題が数多く取り上げられます。その結果、顧客も販売担当者も運用実績に目を奪われやすくなります。しかし、もし購入理由が運用実績や人気であれば、市場環境が変化し、半導体セクターへの期待が後退した瞬間に保有理由も失われてしまいます。
これは半導体関連ファンドに限った話ではありません。アクティブファンド全般に対する金融機関の向き合い方にも共通する課題であると言えます。アクティブファンドを顧客に勧める際には、インデックスファンドだけでは満たせない顧客ニーズが存在することを、金融機関が明確に意識する必要があるでしょう。
インデックスファンドとアクティブファンドの「顧客の資産運用における役割」
アクティブファンドを考える際、多くの場合は「インデックスに勝てるのか」という議論になりがちです。しかし、顧客の資産運用という観点で考えれば、検討すべきなのはパフォーマンスの優劣だけではなく、それぞれのファンドが果たす役割です。
インデックスファンドの基本的な役割は、対象とする市場全体の値動きを効率的に取り込むことです。例えば、全世界株式連動型のインデックスファンドであれば世界経済全体の成長を、S&P 500連動型のインデックスファンドであれば米国の主要企業の成長を、日経平均連動型のインデックスファンドであれば日本の代表企業の成長を取り込むことを役割としています。
一方、アクティブファンドは、市場全体とは異なる特性を資産運用に加えることを目指します。アクティブファンドの役割を考えるには、アクティブファンドを大きく二つに分類すると分かりやすいでしょう。
一つ目は、プレーンタイプのアクティブファンドです。世界株式や国内株式など幅広い投資対象の中から、運用会社が運用方針に基づいて銘柄を選別するタイプです。例えば、成長株型、バリュー株型、クオリティ株型、集中投資型などがこれにあたります。資産運用における役割は、市場平均とは異なる投資哲学や運用アプローチを資産運用に取り入れることにあります。さらに、市場平均を上回る収益機会を追求するファンド(グロース型ファンドなど)と、相対的に割安と判断される銘柄への投資を通じて収益機会を追求するファンド(バリュー型ファンドなど)に分けることができます。
もう一つは、分野特化タイプのアクティブファンドです。半導体関連、AI関連、ヘルスケア関連、インフラ関連、好配当株、環境関連など、特定分野やテーマに着目して運用するファンドが該当します。なお、同様の分野やテーマを投資対象とする商品には、業種やセクター別指数連動型やテーマ型のインデックスファンドもあります。着目する特定の分野やテーマによって、特定分野の成長機会の提供を目指すファンドと、特定分野の安定的な収益特性の提供を目指すファンドに分けることができます。AI関連ファンドや半導体関連ファンドは、各分野の成長機会を取り込むための投資手段となります。好配当株ファンドは、資産成長に加えて、配当収益の獲得を補完する役割を担います。また、ヘルスケア関連ファンドやインフラ関連ファンドは、投資対象によっては、景気変動の影響を相対的に受けにくい値動きが期待されるものもあります。
アクティブファンド活用の本質
半導体関連株や好配当株に投資することは、目的ではなく、顧客の求める資産運用を実現するための手段です。したがって、顧客が資産運用に何を求めているのかを確認したうえで、その目的の実現に適した役割を持つファンドを明確に示し、提案することが重要です。
営業担当者が、「最近よく売れています」ではなく、「お客様の資産運用において、このような役割を果たします」と説明できるようになれば、販売の質は大きく変わります。顧客が役割を理解したうえで保有するファンドは、短期的な相場変動があっても、保有目的を見失いにくくなります。
その結果、顧客が納得して資産運用を継続しやすくなり、金融機関にとっても、長期的な信頼関係の構築や預かり資産の積み上げにつながることが期待できます。
アクティブファンドを活用する目的は、流行の商品を販売することではありません。アクティブファンド活用の本質は、顧客の資産運用において、市場全体の動きだけでは補えない役割を提供することです。顧客本位と投信ビジネスの成長を両立させる鍵は、「売れているファンド」を追いかけることではなく、「顧客の資産運用において明確な役割を持つファンド」を提案することにあるのではないでしょうか。

