① 償却原価法とは?
「金利がある世界」が戻りつつあるなか、債券運用を行う機関投資家という立場から、改めて確認しておく価値がある論点のひとつが「償却原価法」である。これは、債券を額面超過(オーバーパー)または額面未満(アンダーパー)で取得した場合に、その差額を金利調整とみなして、債券の保有期間に按分する会計処理をいう。俗にアンダーパー銘柄の帳簿価額を額面まで増額する処理を、英語の「アキュムレーション」(またはそれを略して「アキュム」)、逆にオーバーパー銘柄の帳簿価額を額面まで減額する処理を、英語の「アモチゼーション」(またはそれを略して「アモチ」)と呼ぶことがあるが、本稿では両者をまとめて「償却原価法」と呼ぶ。
償却原価法とは…債券等の取得額と額面の差額を金利調整とみなして、債券の保有期間に按分する会計処理
●アキュムレーション(アキュム):アンダーパー銘柄の帳簿価額を額面まで増額する処理
●アモチゼーション(アモチ):オーバーパー銘柄の帳簿価額を額面まで減額する処理
『金融商品会計に関する実務指針』(以下『実務指針』という)第57項によれば、償却原価とは「金融資産又は金融負債を債権額又は債務額と異なる金額で計上した場合<略>、当該差額が主に金利の調整部分に該当するときに、これを弁済期又は償還期に至るまで毎期一定の方法で取得価額に加減した後の価額」と定義される。ということは、償却原価法が適用されるのは、これらのオーバーパー・アンダーパー差額のうち「金利調整部分」と認められる場合に限られるため(実務指針第70項等)、減損済みの社債、あるいはいわゆる「ディストレス投資」や「ジャンクボンド」などのように信用リスクが高すぎるとされる債券などに対しては、償却原価法は適用されないことが一般的だ。
しかし驚くことに、最近だと一般に信用リスクがないとされるはずの日本国債なのに「ディストレス投資」を思わせるほどに低い価格で取引されている銘柄がある。日本相互証券株式会社ウェブサイト『BB国債価格(引値)』によると、2026年6月最終営業日時点では、40年債の第9回債(クーポン0.4%、2056年3月20日償還、残存29.73年)が39.548円、同じく第13回債(クーポン0.5%、2060年3月20日償還、残存33.74年)が38.612円である。
ここまで価格が下落した要因はもちろん、日本国債の信用リスクが問題だからではない。単純に債券自体が低クーポンであり、市場金利が債券の固定クーポンに対して大幅に上昇していることに加え、債券の残存期間が長いことが原因だ(現実に、低価格な銘柄は年限が長くクーポンが低いものを中心に散見され、年限が長くてもクーポンが相応に高い銘柄はそこまで低価格ではない)。すなわち日本国債価格が大幅に下落している理由は、超長期ゾーンの市場金利が当該債券発行時点と比べて上がっているからであり、会計上も当該差額は全額が金利の調整に該当すると考えてよい。よって、債券の保有期間にわたる損益(たとえばアンダーパーの場合は収益)として認識するのが妥当である。
なお、余談だが、保有する債券の貸借対照表価額は保有目的区分に応じて異なる。満期保有目的の債券の場合は償却原価をもって貸借対照表価額とする(実務指針第70項)が、その他有価証券の場合は時価をもって貸借対照表価額とし(実務指針第73項)、償却原価法適用後の償却原価と時価との差額を評価差額として処理する(実務指針第74項)、という違いがあるが、償却原価法が適用されるという点では共通している。ただし、売買目的有価証券の場合はすべて時価評価・当期損益処理される(実務指針第67項等)ため、償却原価法は適用されないと考えられる。
② 実務ではあまり使われない利息法
では、償却原価法の適用方法は、具体的にどう考えれば良いか。
本稿執筆日時点の実務指針では、利息法と定額法の二通りの方法が用意されている。
このうち利息法は「債券のクーポン受取総額と金利調整差額の合計額を債券の帳簿価額に対し一定率となるように複利をもって各期の純損益に配分する方法」と定義されており、この「一定率」を「実効利子率」と呼ぶ。
実務指針設例4によると、額面10,000、年クーポンは6%で毎年2回・6月末と12月末に支払われる債券を9,400で取得した場合、実効利子率は8.3%と求められる(図表1)。
図表1 実効利子率の求め方
この設例では、実効利子率はキャッシュ・フロー(年2回のクーポンに加え、X3年12月末の元本の償還)のX1年1月1日時点の割引現在価値がその時点の取得価額である9,400と等しくなる金利(8.3%)と求まる(実務的にはエクセルのゴールシーク機能などを使えば比較的簡単に求められる)。これ自体は単純な割引キャッシュ・フローの議論であり、企業会計上はリース会計などでも出てくるため、経理の世界ではおなじみだろう(注意点としては、債券のクーポンは年2回払いのため、各項の実効利子率が2で割られている点だろうか)。
そして、実効利子率が求まれば、半期ごとの利息額はその時点の償却原価にこの実効利子率の半年分を乗じた額として求められ(たとえばX1年6月30日の利息計上額は9,400×8.3%÷2=390)、償却原価法適用額は当該利息額からクーポン(この場合は300)を差し引いた額(=90)として求められ、償却原価は9,490(=9,400+90)と算定される(以下同じ、図表2)。
図表2 毎期の利息計上額と償却原価法適用額
③ なぜ利息法は使われていないのか
実務指針が示すこの計算自体は、正直、若干雑だ。細かい小数点未満の計算をどこまで反映させればよいのかよくわからないし、また、とくに円債の世界では利払い日が12月31日となる事例は多くないと考えられるうえに、実際の償却原価法の計算に当たって日割り計算を無視し、利率を単純に2で割っているなど、理論的にも必ずしも厳密な方法とはいえない(たとえば設例上、決算期が3月だった場合、6月30日における償却原価法適用額を単純に2で割った数値を「1~3月の償却額」としているらしい)。ただ、「実務上の指針を示す」という観点からは、この程度の単純化した設例でも、実務上は許容範囲だろう。
いずれにせよ利息法は、考え方としては通常の割引キャッシュ・フローに基づく投資収益率と類似しており、後述する定額法と比べれば、経済的な市場金利調整という観点からは正確だ。
ただ、実務指針第70項では、償却原価法は「原則として利息法によるものとする」とされているにもかかわらず、著者が知る限り、実務の世界でこの利息法が使われることはほとんどないようだ。
その理由としては、債券を取得するたびに実効金利を計算しなければならないのが面倒であることに加え、とくに同一回号の債券を追加取得した場合に実効金利を再計算しなければならないなど、さまざまな理由が考えられる。
もうひとつの「定額法」とは、どのような方法か。
これについて実務指針第70項では次のように定義している。
「定額法とは、債券の金利調整差額を取得日(又は受渡日)から償還日までの期間で除 して各期の純損益に配分する方法<後略>」
そのうえで、「継続適用を条件として、簡便法である定額法を採用することができる」とされている。したがって、「このやり方の方が簡単だから、多くの機関投資家は利息法ではなく定額法を採用している」、といった説明がわかりやすいだろう。
④ 税務上の定額法:奇妙な日数按分
ただし、この「定額法の方が利息法より簡単だから、利息法ではなく定額法が使われている」という説明も、じつは正しくない。多くの場合、実務で用いられている償却原価法は、厳密にいえば、この「会計上の定額法」でもなく、「税務上の償還有価証券の規定」だからである(便宜上、これを「税務上の定額法」とでも呼びたい)。
この「税務上の定額法」の根拠となるのが法人税法施行令第139条の2に定める「償還有価証券の調整差益又は調整差損の益金又は損金算入」という規定だ。税務に規定が設けられていた場合、税務調整の手間を回避するため、通常、会計上容認される限りにおいて、当該税務の規定に引っ張られるのが世の常である。
そして、税務上の償却原価法はもっと「雑な」方法だ。法令の文言はきわめてわかり辛いのだが、これを可能な限りわかりやすく表現すると、①前期末と当期末で債券額面が増えていた場合、当該増えた分については、期のちょうど半分の時点で購入したとみなして償却原価額を計算する、②保有する債券の額面を前期末と当期末で比較し、当期末残高が前期末残高と同じか下回っていた場合は未償却残高を定額法で償却する、という方法だ(図表3)。
図表3 税務上の償却原価額の計算方法の概要
考えてみれば、これも奇妙な方法である。ある債券を当期に新規購入した場合、あるいは前期末から継続保有している同じ債券を当期に追加購入した場合、それを今期の何月何日に買ったかには関係なく、当期の日数(閏年以外は通常365日だが、上記図表では「A」と表現している)を半分で割った日数分だけ保有していたものとして償却原価法が適用されるからだ。極端な話、期末(金融機関の場合は3月31日)の直前、たとえば3月30日あたりにアンダーパーの銘柄を購入し、翌期首あたりにこれを売却すれば、損益が歪む可能性もある。
⑤ 損益が歪む実例
では、この「損益が歪む」とは、いったい何を意味しているのか。
具体的な設例で考えてみよう。
たとえばコロナ禍期に発行された国債などはおしなべてクーポンが低いが、仮にわが国の短期金利が4~5%といった水準(あるいはロシア並みに十数パーセントという水準)に上昇した場合、これらの債券の市場価格は大きく下がるはずだ。そして、低クーポンであるがためにアンダーパーとなっている銘柄があったとして、これを期末直前で購入した場合には、実際の保有日数がごくわずかであっても、かなり巨額の償却原価法適用額が計上される可能性がある。
短期金利も5%程度に上昇している局面で、ある金融機関がX1年3月30日に残存約1年の国債(額面100億円、クーポン0.1%、償還日はX2年3月20日)を95億円で購入したとする。この場合、取得差額の5億円(=100億円-95億円)は、どのように処理されるか(便宜上、受渡日は購入日と同日とする。また、X1年4月1日からX2年3月20日までの日数は354日とする)。
自然に考えたら、この国債の購入日から償還日までの日数は356日であり、X1年3月期は3月30日、31日と2日間しかないから、X1年3月期に計上すべき償却原価法適用額は5億円に「2日÷356日」を乗じた額(約281万円)で、残額(約4億9719万円)は翌・X2年3月期に計上すべきである。
しかし、この法人税法の規定だと、図表3に示した「A÷2」が182.5日、「B」が354日、したがって「A+B」が536.5日となるため、X1年3月期に計上すべき償却原価法適用額も、この5億円に「182.5日÷536.5日」を乗じた額(約1億7008万円)となり、「2日間しか保有していなかった場合の理論的な日数按分額」(281万円)を約1億6727万円も上回っているなど、ずいぶん多額だ。
これを図解したものが、図表4である。
図表4 税務上の償却原価法の特質
なんだかずいぶんと違和感のある計算だが、しかし、これが税務上の償却原価法の計上方法なのだから、仕方がない。そして、かかる税務上の償却原価法の計算が、会計上もそのまま償却原価額として利用されているというのが、多くの機関投資家にとっての実務ではないかと思う。
以上を踏まえてひとつ予言しておくならば、今後、かりに金利が上昇した場合、過去に発行された低クーポン債を中心とする「アンダー銘柄」(額面より低い価格で取引される銘柄)の需要が高まる可能性はあるだろう。

