Q:職員「支店長! 売れ筋の投資信託を3つ覚えて売れるようになりましたが、全ての商品を覚える必要はありますか? 」
A: 支店長「とりあえず3つを偏りなく、ニーズのあるお客さまに顧客本位で案内してください。販売経験を積んでいけば他の商品は徐々に覚えられるようになりますよ」
森脇's Answer:
この回答は実に曖昧で、若手職員の不安を払拭するものではありません。特に「販売経験を積めば」という言葉は、新入職員にとって恐怖や失望をもたらす場合もあるでしょう。知識不足で営業現場に送り出されるのは、装備不十分で戦に出るようなものであり、不安を感じて当然です。そのような職員に必要なのは教育を受ける機会です。それに対して「経験を積めば」という言葉には、営業成績を上げることが優先で、教育は後回しであるという含意が読み取れます。研修が不十分で、上司や先輩に知識に関する質問をしても明確な回答が得られない職場であれば、若手職員は自分のキャリア形成について希望を持つことはできないでしょう。
投資商品は“面”で理解する
さて、質問に対する筆者の回答はこうです。商品は売れ筋だけ覚えればよいということはなく、全ての商品について理解する必要があります。金融機関は常に学習が必要な仕事です。学習せずとも売り上げを出せば勝ちだと思っている人は、顧客の最善利益義務を課せられている金融機関役職員としては問題があると言っていいでしょう。
全ての商品を理解することが当然であるからと言って、それまで営業活動ができないのかと言えばそうではありません。全ての基礎となる部分を把握できていれば、最低限の知識で営業現場に立つことができるでしょう。ポイントは点(商品)とともに面(全体)を覚えるということです。ある商品について学習する際に、同時にその商品が金融商品全体の中でどのような位置づけであるのか理解するのです。地図上における目的地を検索する際に、それのみをピンポイントで調べるのではなく同時にその周辺情報も合わせて確認しておくようなものです。そうすることで、対象への理解がより深まります。新たな情報をその地図の中に追加していくように、別の商品を学習する際にはそれまで把握した商品群の全体像の中に配置して覚えていきます。そうすることで各商品の関係性の理解も深まっていきます。
では、どのように金融商品についての全体マップを作っていけばよいでしょうか。まずは資産クラスに分けて考えます。すなわち、株式、債券、リート、その他、とざっくり4つのカテゴリーに分けます。そして、それぞれのカテゴリーで国内資産か海外資産かに分け、次にパッシブとアクティブを分けます。さらに主な組み入れ通貨も確認します。最後は各カテゴリーの中でリスクの大きい順に並べます。アクティブの場合には大まかな特徴を押さえておきましょう。
こうして全体マップを描いた上で、覚えた売れ筋商品の数本がどの位置にあるのかを確認するのです。このように商品を点としてだけでなく、面で把握することにより、新たに導入された商品がどの位置に来るかを瞬時に認識できるようになってきます。そればかりか、お客さまが保有している商品について、自金融機関のものだけではなく他金融機関の商品も含めてバランスを考慮して考えられるようになります。お客さまのリスク許容度や価値観に照らし合わせて、覚えた商品よりももう少しリスクが大きいものが良いかもしれないと思えば、当該商品よりもリスクの大きなところに位置する商品について調べ、提案の幅を広げていくことができます。
本部や外部に任せきりにしない! 商品研修のあり方
各金融機関において商品研修はどのように実施されているでしょうか。運用会社の担当者が講師として、その運用会社の商品を解説してもらう研修を実施している金融機関は多いでしょう。そのような機会を活用することは大いに結構なのですが、それだけで商品に関する研修が十分ということにはなりません。運用会社による解説は、自社商品のアピールであり、あくまでも点での説明にすぎません。
各金融機関は、預金なども含めた自行庫の取り扱う全商品の位置付けと関係性について、全体像が把握できるような研修を実施する必要があると筆者は考えています。運用会社による商品解説は、ときに投資対象について、すなわち投資する先の国・地域や分野がいかに高い魅力があるかという説明に重点を置きすぎていて、当該商品の特徴についての説明が不十分な場合があります。やはり自金融機関の職員が利益相反のない形で改めて解説を補完するのが望ましく、職員がその商品を全体像の中に位置付けられるようにしなければならないのです。自金融機関内での解説が難しければ、運用会社の担当者と相談して、当該商品内容を詳細に解説することや、同分野の他商品との比較について説明するよう依頼したいところです。そのためにも、研修責任者が外部講師による研修には必ず同席して、その内容を精査する必要があることも付言しておきます。
金融機関の規模によって集合研修の状況は異なっており、配属後支店内でのOJTなどに重点が置かれている場合も多いと思います。OJTで直接指導するのは年齢の近い職員で構いませんが、サポート役には支店でトップの知識を持つ職員を充てることをお勧めします。数人まとめてレクチャーをする機会を設けるとよいでしょう。学びは実践できてこそ意味があります。本部の集合研修に任せきりにするのではなく、実践の場である支店内で学びあう習慣を作るのはいかがでしょうか。労働時間の制約などから反発があるかもしれませんが、学ぶ機会を用意して人材を育成することが、顧客本位での提案を実現させる道だと確信しています。