私が「PEDAL(ペダル)行動」という言葉に出会ったのは2020年央、まさに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が猛威を振るっているころのことでした。ご多分に漏れず、当時、私が勤務する会社も在宅勤務主体となり、オフィス勤務時代とは異なる環境での活動が続きました。工夫をこらしての情報収集を求められるなか、私は偶然にも「PEDAL行動」という言葉に出会いました。コロナ禍なかりせば、この言葉は生涯知らずにいたかもしれません。まさかPEDAL行動が、70歳代に向かうその後のシニア人生の指針になるとは露知らず…
PEDAL行動は、シニアが自走力をつけるための5つの特性を示すものと言われています。まず、新しいことに挑戦し(Proactive)、自分が大切にしている価値観と仕事の意識を結びつけ(Explore)、年齢にこだわりなく多様な人々との仕事をすすめ(Diversity)、人間関係の結節点となり(Associate)、経験したことを繰り返し、次に生かす(learn)ことです。皆さまお気づきのように、5つの単語の頭文字を揃えるとPEDAL(ペダル)となり、自転車のペダルになぞらえています。
法政大学の石山恒貴教授は「自転車のペダルは、こぎ始めこそ重いが、こぎ出せば軽くなっていき、スイスイ自走できる。だから、シニアは長年のキャリアもあり、全てを一から学ぶ必要はないのでは。」と述べられています。ちなみに、PEDAL行動は偶然出会った言葉と申し上げましたが、それもそのはずです。私が読み始めた記事のタイトルは「中高年労働者の継続的活躍 5つの行動」だったからでした。
コロナ禍で在宅勤務が生じたため、偶然に出会ったPEDAL行動という言葉でしたが、金融業界から離れ、メディアの世界に入ったからこそ目に止まった言葉もありました。それが「カスタマー・アドボカシー」という言葉でした。金融業界からメディアの世界に入ったばかりの私は、新聞や雑誌等への読み方や見方を変えました。どこかに弊社の雑誌に寄稿してくれるような識者がいないものだろうか。「カスタマー・アドボカシー」はそんな気持ちで記事を追いかけるなかでの発見でした。
メディア業界に移って間もなく、2023年2月のことでした。日経新聞「やさしい経済学」に名城大学経営学部の山岡隆志教授が「顧客優位時代の経済戦略」という表題で、10回にわたり連載されました。山岡教授のお考えをまとめると「カスタマー・アドボカシー志向」は「現代版顧客志向」といえる概念と言う事でした。私は連載記事10回分を順に並べ、一気に読んでみました。すると、ある事柄に気づきました。山岡教授の連載のなかでは、個別具体的な企業名とその企業の主たる業務に触れられているのに、金融機関が全く登場してこなかったのです。私は、そのことを不思議に思い、山岡教授が所属されている大学に照会すると、ご本人と首尾よくオンラインでお話できることになりました。私は、疑問に思っていることを率直にお伝えしました。
すると、山岡教授に後日、フィナシープロ編集部のインタビューをご快諾いただきました。その内容は「金融機関の『カスタマー・アドボカシー志向』の可能性」という記事にまとめられています。
「カスタマー・アドボカシー志向」は、発想の軸足を完全に顧客側におき、徹底的に顧客本位のサービスを提供し、企業が顧客と強固な信頼関係を構築することを目指したマーケティング戦略でした。山岡教授は、「金融機関にとって高い顧客志向性を追求すれば、大きな顧客満足が得られ、結果、それは金融機関に付加価値をもたらす。」と明言してくださいました。
皆さまもこれから人事異動等で仕事や職場が変わることがあると思います。私は予期せぬパンデミックでの在宅勤務経験や、異なる業界への転職など環境変化に直面しました。しかし、それらは私に新たな発見をもたらし、職業人人生への原動力になりました。環境変化が皆さまのビジネス人生に訪れたら、それは必ずやターニングポイントになっていると、私は強く信じます。