10月27日より11月14日にかけて、地方銀行・第二地方銀行99行が順次今年度上期(9月末時点)の決算短信を公表した。銀行持株会社傘下の一部の子銀行には、今月下旬以降の決算公告時まで詳細な内訳の情報開示を行っていない先があるものの、これらの公表に伴って、概ね決算状況の定量的な把握が可能となった。
このため、12月4日時点での主要係数に関する定量分析をごく簡単に実施し、ランキング形式でできるだけ分かりやすくお伝えすることとしたい。第2回目は、有価証券投資に関係する数値に着目させていただくこととしたい。
伸び率はわずかながら含み益は4割超拡大
前回同様、最初に合計値から概況を掴むこととしたい[図表1]。
株式会社プロクレアホールディングス傘下の青森銀行・みちのく銀行と、八十二銀行が子会社化した長野銀行は、有価証券残高を公開していない。これら3行を除いた96行の上期の有価証券残高は84兆1,952億円となり、前年同期比で1.46%伸びた。
利息・配当やキャピタルゲイン目的の投資有価証券を抽出し、市場における時価を貸借対照表に計上する「その他有価証券」は、内訳を「株式」「債券」「その他」に区分表示することが一般的だ。99行のこれらの内訳と合計を合算したところ、「債券」と「その他」の含み損計を上回る「株式」の含み益により、2兆1,276億円の含み益を抱える収支となった。単純計算では、1行当り214億円の“貯金”を抱えた形となる。
預金や融資を上回る投資残高格差
次に、有価証券残高を規模順に並べた上で、上位および下位の各々10行を抽出した[図表2]。最も残高の多い京都銀行と最も少ない福邦銀行の格差は764.56倍となり、70倍台の格差であった預金や融資の10倍以上となった。上位のうち残高を減らしているのが3行であるのに対し、下位では残高を増やしているのが3行にとどまる対照的な動向がみられることから、格差は拡大傾向にあると見込まれる。
個別の顔触れでは、上位10行全てをいわゆる大手地方銀行が占め、預金残高と有価証券残高の相関性の高さが示された。
次に伸長率を数値順に並べたところ、前年同期比で残高を増やしたのは上位43行にとどまり、過半数の下位53行が残高を減らした。上位および下位の各々10行を抽出したところ、上位では第9位の荘内銀行を除く9行がいずれも1,000億円超の単位で投資残高を拡大させた[図表3]。
個別の顔触れでは、上位・下位共に地方銀行7行・第二地方銀行3行の構成となった。各々の業態内でも、有価証券投資を巡る姿勢に違いがもたらされている実情が窺える。
「株式」は投資残高を保有する全行に含み益
有価証券投資に伴う含み損益の内訳を調べるため、最初に「株式」を掘り下げたい。
99行の株式損益を収支順に並べ替えたところ、金額の多寡はあるものの、評価損益欄に金額を計上していなかった3行を除く96行の収支が全てプラスとなった。よって、株式に投資した96行全てに含み益がもたらされたこととなる。
その上で、各々の上位および下位10行を各々抽出した[図表4]。
上位は全て大手地方銀行が占めた一方で、下位のうち7行を第二地方銀行が占め、図表2の有価証券残高上位との相関性の高さが窺えた。個別の顔触れでは、第1位の京都銀行が第2位の八十二銀行の2倍弱の8,461億円となり、単独で99行の株式収益全体の16.90%を占めた。
「債券」に含み益を保有するのはわずか2行
次に「債券」を掘り下げたい。株式同様に、99行の債券損益を収支順に並べ替えたところ、金額を計上していなかった2行を除く97行のうち、プラスはわずか2行にとどまり、株式と対照的な結果となった。単純計算で、97.94%とほぼ全ての銀行が債券投資によって含み損を抱えた形だ。
その上で、各々の上位および下位10行を各々抽出した[図表5]。上位のうち8行を第二地方銀行が占めた一方で、下位に入った第94位の北洋銀行は第二地方銀行最大手であるなど、規模との逆相関関係が窺えた。
通貨が日本円のため為替リスクがなく、流動性も高いことから銀行の有価証券投資の中心に据えられる国債・地方債などは、一定額のラダー型購入によってポートフォリオを形成する姿が平均的だ。そうした投資後に、金利上昇などの影響を受けて含み損を膨らませてきた実情が見込まれるがゆえに、投資残高と含み損の大きさに相関性の高さが認められる。
個別の顔触れでは、含み益が最多となった北九州銀行は2011年、それに次ぐ東京スター銀行は2001年に営業を開始している。いずれも設立から日が浅いため、債券のポートフォリオの大きさが相対的に小さい実情を見込む。
「その他」も含み益を保有するのは16行
内訳の最後に「その他」を掘り下げたい。株式・債券と同様に、99行のその他損益を収支順に並べ替えたところ、金額を計上していなかった1行を除く98行のうち、プラスは六分の一以下の16行にとどまる。単純計算では、含み益を持つ銀行は16.33%となった。
その上で、各々の上位および下位10行を各々抽出した[図表6]。
上位には全て含み益が認められるものの、顔触れの多くを第二地方銀行が占める図式は債券同様だ。債券では10行中9行を地方銀行が占めたが、その他では全てを地方銀行が占めた。最多の含み損額も、債券・その他が同じ800億円台となっている。
債券との対比で個別の顔触れを捉えてみると、上位には全く重複している銀行がなく、投資姿勢の違いが窺える。その一方、下位では静岡銀行および肥後銀行の重複がみられ、全体の収支同様に株式の含み益を債券とその他の含み損が消し込む図式が窺える。
次回は利益関係動向を見ていく。