じつはハードルは決して高くない
これを見ると、ヘッジ会計の適用には、少なくとも会社全体で「リスク管理方針」なるものを策定し、個々のデリバティブ取引についてもその「リスク管理方針」と整合していることを「文書で確認しなければならない」、「適切な内部規定・内部統制組織が必要」などと記載されており、ヘッジ会計適用のハードルは非常に高く見えてしまうのである。
そのうえ、「有効性のテスト」、つまり「80~125%の相関関係」(※「125%」とは80%の逆数)という要件も、とくに金利系のデリバティブ取引を行うに当たっては、極めてハードルが高いように見えてしまう。たとえば日本国債を含めた一般の債券の利回りの変動幅をスワップ金利の変動幅と比較すると、「80~125%」の範囲には収まらないことが一般的だからだ。
ただ結論からいえば、銀行等金融機関にとって、実はヘッジ会計適用のハードルはそれほど高くない。まず、「リスク管理方針」については、一般に銀行等金融機関はバーゼル規制に基づきリスク管理体制の構築が要求されており、フロント、ミドル、バックといった職務分掌に加え、リスクを適切に把握・管理するための内部統制組織が構築されていることが一般的である。
したがって、「リスク管理方針の策定」に関しては、じつは「ゼロから構築する」という必要などない。もちろん、ヘッジ会計規程などを整備する必要はあるが、手始めに比較的簡単なヘッジ取引を行うだけであれば、ヘッジ会計を適用するためだけにわざわざ新たな「リスク管理方針」を定める必要はないはずだ。
そうなると、大きな課題は「有効性の検証手続」だが、とくに金利系商品の場合、結果的に有効性検証が省略可能(ないし簡易な検証で可能)という事例が大変に多く、事実上、ハードルは非常に低い(図表2)。
【図表2 実は低いヘッジ会計適用上のハードル】
実際のところ、有効性検証を「飛ばす」ためのテクニックは、数多く用意されている(図表3)。
【図表3 有効性検証が不要となるケースの例】
とくに金利系に関しては有効性検証手続自体が不要となるケースが多く、うまく活用すれば、一見複雑なヘッジ会計の手続は飛躍的に簡単になるのではないだろうか。著者自身の知っている事例だと、こうしたヘッジ会計の有効性検証手続の省略規定などをうまく活用し、組織人員の増員等を行わずに達成したというケースもある。ヘッジ会計に関して研究する価値があるゆえんといえるだろう。