正しくは「若者がリスクを取れる=人的資本」

それでも若者がリスクを取れるのは事実です。ただ、考え方が全く異なります。

ここで、皆さん自身を1つの資産だと考えてみてください(これを「人的資本」と言います)。雇用が不安定化しているものの、多くの日本人はそれなりに安定した給与を定年退職まで毎月受け取ることができますから、人的資本は安定的に金利を受け取れる債券に近いイメージの資産と言えます。また、若い時には定年退職までの期間が長く、将来多くの給与を稼げるので人的資本は大きくなりますが、定年退職直前の人は将来、給与を稼げる期間が短いため人的資本は小さくなります。

若者はこの債券に似た低リスクの人的資本をすでにたくさん持っているので、少ししかない金融資産で多少リスクを取ったとしても、全体(人的資本+金融資産)に与える影響は限定的になります。よって、「若者はリスクを取れる」と結論づけることができるのです。

若者を取り巻く2つのリスクを想定してみると……

若者がリスクを取れるのであれば、リスクを取って運用すべきだと思うのですが、冒頭で触れた通り、実際にはそうしない若者が非常に多いのです。こんなことを言うと、「リスクを取らないで預貯金にしておけば減ることはないので安心。何が悪いんだ!」との反論が聞こえてきそうです。でも、実はリスクを取らないことにもリスクがあるのです。

1つはインフレです。新型コロナウイルスにより前例にない規模で財政出動がなされた結果、世界にはインフレの影が忍び寄ってきています。日本もその影響からは逃れられません。将来的には日本にもインフレが押し寄せてくる可能性も十分にある一方、国内金利は経済を活性化するために低金利が維持されるでしょう。つまり、預貯金の金利よりもインフレのほうが大きくなり、預貯金では実質的にお金が減ってしまうリスクにさらされるのです。インフレと同じだけのリターンを稼げて、初めて安心・安全になるのです。

もう1つは年金減額です。今の公的年金では少子高齢化に対処するため、徐々に年金額を減らしていく措置が実行されています。今の65歳の夫婦は、現役男子の平均給与の61.7%もの年金をもらえていますが、今の若者が年金受給者になるころには、想定どおりの場合で平均給与の50.8%程度(2019年財政検証におけるケースⅢ)、年金改革が想定どおり進まなかった場合には平均給与の45.8%程度の年金しかもらえなくなります(同ケースⅤ)。

このように、若者がシニアになるころには年金額が実質的に減り、自助努力で必要となる金額が想定よりも増える可能性があります。このような状況で預貯金に放置しておくと、定年退職までに十分なお金が形成できないリスクが高くなります。