年金形式で受け取ると健康保険や介護保険の負担増も

以前雑誌の企画で、勤続38年の人が2000万円の退職金を①一時金として受け取った場合②60歳から10年間の有期年金として受け取った場合(運用利率2%、65歳以降はこの他に公的年金を240万円受給すると仮定)――の税金を比べてみたことがあります。この比較で、両者の差が分かりやすく表れました。

①は前述の通り、非課税です。一方で②では退職金を年金受け取りにすることで、所得税と住民税の負担が10年間で約200万円増えるという結果になりました。2%の利回りが上乗せされるものの、税金の増加分で相殺されてしまいます。つまりこのケースでは、社会保険料の負担が増える分、年金形式の受け取りが損になる、ということになります。

それだけでは済みません。健康保険や介護保険には、月ごとの自己負担額が一定額を超えた場合にその超過分を払い戻してもらえる「高額療養費」「高額介護サービス費」という制度がありますが、年金形式を選ぶことで老後の所得が増えると、その自己負担限度額の所得区分が上がってしまうこともあるのです。

「会社とつながりを持っていたい」から年金形式を選択

さてここまで、新卒や第二新卒で定年まで勤め上げた方なら、「実質受取額」の面では退職一時金を選ぶのが有利というお話をしてきました。しかし、だからといって年金形式での受け取りを否定するわけではありません。

以前、ある大手メーカーの福利厚生を取材した際、定年退職する社員の大半が年金形式での受給を希望するという話を聞きました。その理由が、「会社を辞めた後も会社から年金が振り込まれることで、会社とのつながりを保っていられる」「自分がそこの社員だったという誇りを持ち続けられる」というもので、話を伺った筆者も思わず胸が熱くなった次第です。

当該メーカーは就職人気企業ランキングでも長年にわたって上位にランクされており、福利厚生も業界内で群を抜いて手厚く、従業員と非常にいい関係を築いていることがうかがえました。
こうした“心のプレミアム”があるのであれば、損得関係なしに年金形式が選ばれる理由も納得です。