――新型コロナウイルスの感染拡大により、経済のみならず人々のライフスタイルも一変しました。足元の日本経済をどうみていますか。

経済活動の再開により、4月と5月を景気の底として、いったん底打ちしました。6月から回復局面に入っていると考えられますが、これは上向きか下向きかという方向感にすぎません。絶対的な水準は依然として低く、水面下にある状態です。感染拡大の防止と経済活動はトレードオフですから、当面は需要不足の状況が続くと考えるのが自然で、長ければ2、3年継続するとみています。

永濱 利廣 氏

調整も予想されるが米国株次第で早期の回復も

――ければ年内にも治療薬やワクチンが実用化されるといった報道もありますが、それだけでは浮上できないということでしょうか。

治療薬やワクチンが普及すれば改善はしますが、一気にコロナ前の水準まで回復するのは難しいと思います。

リーマン・ショックとその後の日本経済を振り返ってみても、GDP成長率が危機前の水準を回復するのに6年を要しています。しかも、その回復で大きな成長を遂げたわけではなく、あくまで水面下での回復です。アベノミクスでようやく浮上できそうに思われましたが、2019年の消費増税でブレーキがかかり、新型コロナウイルスによって押し戻される格好となってしまいました。

当面は金利が上昇する要素も見当たらず、他の先進国でも低成長、低インフレ、低金利が続く「日本化」が心配されます。平成という「失われた30年」は主に需要不足によってもたらされたわけですが、コロナ禍でこれが「失われた40年、50年」に長期化する恐れすらあります。

ただ、アベノミクスの成果が全て帳消しになってしまったわけではありません。アベノミクス以前は海外の株式市場が回復しても日本株だけが取り残される「ジャパンパッシング」の状態が続いていましたが、近年の日本株は米国の株式市場に連動する傾向が強まりました。外国人投資家に日本株を持たざるリスクを意識させたことは大きな成果であり、日本の投資家は今も恩恵を受け続けていると言えます。

――なかなか厳しい見通しですが、一方で「コロナショック」後の株式市場は堅調です。

実体経済が大きく痛んでいる半面、株価は底堅い展開が続いているのは確かです。世界的な低金利を背景に、行き場を失ったマネーが株式市場に向かっていたところで、経済活動再開による期待が織り込まれているのでしょう。

しかし、7月からの感染再拡大で日本経済の回復は予想よりも遅れることが濃厚で、株式市場も秋にかけて調整局面入りすると予想しています。さすがに3月のような激しいショックにまではならないと思いますが、1割程度の下落は覚悟しておく必要があるかもしれません。

それでも、すでにお話しした通り、日本株は国内景気よりも米国株の影響を強く受けるようになっていますから、たとえ景気が悪くても、米国株次第で早期の反転もあり得ます。

――極端に言えば、米国頼みというわけですね。

米国は世界で最も大胆な金融財政政策を実施しているため、景気回復も早いと考えられるものの、2つのリスクがあります。1つは米中摩擦のさらなる激化で、もう1つは11月の大統領選です。

短期的にポジティブなのは、トランプ再選と上院・下院ともに共和党優勢のねじれのない議会でしょう。しかしそうなると、米中対立はいっそう激化する可能性も高まります。それに対して緊縮派のバイデン氏が当選しても、長期的には財政赤字を食い止めてプラスになる可能性もある。バイデン氏は環太平洋経済連携協定(TPP)への復帰も示唆していますから、そうなればマーケットにもポジティブです。

また、米国の景気が正常化すると、金融緩和の出口が議論されることになります。金利の先高観が意識されると株式市場にはリスクであり、当然ながら日本の株式市場も影響を受けるので警戒が必要です。