新型コロナウイルスの感染拡大による景気悪化とは対照的に、株式相場が上昇に転じるのは早かった。事実、日経平均株価は2020年6月8日、約3カ月ぶりに2万3000円台まで回復。3月19日につけた年初来安値から約40%も上昇したわけだ。

このように経済悪化とは反対に日本株式市場が上昇している裏側には、日本政府が財政政策を通じて経済支援の姿勢を示しただけでなく、日本銀行(日銀)のETF買いがあることはご存じだろうか。

2010年の白川方明総裁の時代に開始した日銀のETF買い入れ。当初は年間4500億円の購入枠でスタートしたが、白川氏の後任となる黒田東彦総裁が2014年に年間3兆円に増額、さらに2016年には年間6兆円にまで引き上げた。

そしてコロナ禍の渦中における2020年3月16日の金融政策決定会合ではETF買い入れ額を一時的に12兆円に倍増する姿勢を示し、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う景気悪化懸念を受けて下落した株価を、下支えする役割も果たしたと言われている。

日銀がETFを購入している本来の目的とは?

しかし、日銀のETF購入が直接的かつ大きな影響力を持って株価をコントロールしているとも言い切れない。数字のインパクトは年間12兆円と大きいものの、日銀の買い入れ金額が最も多かった2020年3月で1日2000億円程度。約3兆円という取引所の1日当たり平均売買代金の6%ほどだ。

そもそも日銀は、金融政策決定会合の中でも「リスクプレミアムの拡大を抑制し、金融市場の安定を確保する」ためだとその理由を説明している。つまり日銀は、ETFの購入を通して「個人投資家の不安を緩和している」と言え、不安の解消によって投資家の購買意欲を高め、株価が上がることを期待しているわけだ。

ただ、株価の上昇は日銀の本当の目的ではない。一番の狙いはETFを購入することで世の中に出回るお金を増やし(これを「金融緩和」と呼ぶ)、物価の緩やかな上昇、つまりはインフレ率年2%を実現することにある。

日銀がETFを購入することで株価が上昇すれば、企業は株式の発行を通じた資金調達を行いやすくなる。資金を確保できれば、新規事業や設備への投資によって、さらなる業績拡大につながるかもしれない。その結果、従業員に支払われる給料が増え、消費が進む。

また、個人投資家に対しても、株価の上昇によって得た利益などで消費を促す狙いもある。つまり、商品・サービスの需要が増えることよって、前述したように安定した物価上昇を実現するのが本来の目的だと言える。