買いすぎを少し心配する祐子

それから2人はデパートに向かい、買い物を楽しんだ。春枝は気に入った洋服を何着か購入し、その後は祐子と一緒に昼食を取った。昼食後は食料品売り場にも立ち寄り、夕食のおかずやお菓子などを購入してから帰路についた。

助手席で袋を膝にのせた春枝は満足そうに頬を緩めた。

「いつもいつもありがとうね。おかげで楽しかったわ」

「私も楽しかったよ。でもずいぶん買ったね」

「そうね。ついつい買い過ぎちゃったわ。もういつ行っても素敵なものが多くて」

春枝は困ったように笑った。少し買い過ぎではないかと思ったが、貯金もあるだろうし、満足そうな表情を見ていると何も言えなかった。

「そういえば、祐子は今日はこの後何か予定あるの?」

「予定? そんなのいつもどおり、宏昌が帰ってくるまでに夕食の準備をするくらいよ」

「今日はゴルフに行ってるのよね? もし遅くなるようだったら、うちで少しゆっくりしていったら? さっき美味しそうなクッキーを買ったから一緒に食べましょうよ」

祐子は少しだけ考えてうなずいた。

「うん。それじゃちょっとゆっくりさせてもらおうかな」

「そうしましょうよ。新しい紅茶の茶葉も買ったばかりだから、それも飲んでほしいの」

赤い文字が記された1通の封筒

それからしばらく車を走らせて実家に到着した。荷物を持っている春枝に代わって祐子は実家の玄関を開けた。扉を開けた瞬間、玄関からまっすぐ廊下が延びて、その奥に居間の扉が見えた。物心ついたときから何度も見た光景だが、変わらないその眺めに祐子は心が落ち着くように感じた。

祐子は玄関を上がると、そのまま居間に向かった。居間には雅彦が生前愛用していた座椅子が今も残されていた。その一方で、棚には春枝が旅行先で購入した置物や写真が増えており、祐子は母の生活がずいぶん変わったことを感じた。

「座ってて。すぐにお茶淹れるから」

春枝は台所に向かい、祐子は買い物袋を居間の隅に置いてテーブルの前に腰を下ろした。すると、テーブルの端に何通かの郵便物が置かれていることに気付いた。

何気なく目を向けた祐子だったが、なんとなく気になって手に取ってみるとそのうちの1通は差出人欄に金融機関の名前が書かれていた。そして封筒には「督促状」と赤い文字で記されていた。

「え……?」

祐子は封筒を見て思わず固まった。ついさっきまで楽しそうに買い物をし、今は台所で鼻歌を歌っている母と目の前の督促状が結びつかなかった。

●夫を亡くしてから、おしゃれや旅行を楽しむようになった73歳の母・春枝を喜んで見守っていた祐子。その日も母娘で買い物を満喫するが、帰宅した実家のテーブルで、祐子は金融機関から届いた「督促状」と記された封筒を見つけてしまう…… 後編【「私はもう73歳なのよ」亡夫の遺産を使い切り借金100万円…娘を絶句させた母の“まさかの言い分”】にて、詳細をお伝えします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。