息子の教育を巡り夫婦に溝
その日の夜、夕食の片付けを済ませたひかりは、ダイニングでくつろいでいる夫・尊に声をかけた。
「ねえ、悠真のことで相談があるんだけど」
「どうした?」
「実は、小学校受験をさせたいと思って」
ひかりはソファ越しに振り向いた尊に、スマートフォンを手渡し、気になっている学校のホームページを見せた。
「ここ、少人数教育で課外活動も充実してるし、系列の中学校にも進めるの。地元の中学校はあまり評判がよくないみたいだし、いいと思わない?」
「いや、私立なんて学費が高いだろ」
予想外の返事に、ひかりは一瞬戸惑った。
「でも、今日悠真を受験塾の体験授業に連れていったら、すごく楽しそうだったの。本人もまた行きたいって言ってるし」
「だからって、わざわざ私立に通わせる必要はないだろ。受験はしなくていいよ」
尊はあっさり言い切り、スマートフォンをひかりに返すと、再びテレビへ目を向けた。
「ちょっと待って。ちゃんと話を聞いてよ」
「聞いてるよ。でも、小学校からそんなに金をかけなくてもいいだろ」
「……悠真の将来のことなのよ? もう少し真剣に考えてくれてもいいんじゃないの?」
尊はちらりとひかりを見たが、それ以上話を続けようとはしなかった。ひかりは悔しさをこらえながら、スマートフォンの画面を見つめた。
尊が倹約家なのは昔から知っている。無駄遣いを嫌い、お金のかかる趣味もない。悪いことではないと思っていたが、悠真の教育費となると話は別だ。
昼間、工作を手に嬉しそうに笑っていた悠真の顔が浮かぶ。簡単には諦めたくない。
ひかりはスマートフォンを握ったまま、尊の後頭部を睨んだ。
●息子・悠真にも私立小を受験させたいと考え始めたひかり。体験授業を楽しむ悠真を見て期待を膨らませるが、夫・尊からは「小学校からそんなに金をかけなくてもいい」と反対され、教育方針を巡って夫婦の意見が食い違う…… 後編【「じゃあ、受験しなーい」私立小に前向きだと思っていた母…当事者である息子があっさり翻した“本音”】にて、詳細をお伝えします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
