白い朝日が差し込むキッチンで、里奈は大小2つの水筒に麦茶を注ぎ、しっかりと蓋を閉めた。リビングを振り返ると、幼稚園年長の息子・優が真剣な表情で床に広げた時刻表と路線図を見比べている。日帰りで電車旅に出かけることを決めてからずっとこの調子だ。

「ここで快速に乗って、次の駅で各駅停車に乗り換えたら……」

優はとにかく鉄道に目がなく、電車に関することなら何でもすぐに覚えてしまう。言葉の発達は、特別に早いほうではなかったが、車両や路線の説明であれば流暢に話すことができた。

息子のために計画した旅

そんな優のために鉄道旅行を計画していたのだが、単身赴任中の夫は、夏休み期間に合わせて休暇を取ることができなかった。流れてしまった家族旅行の代わりに、せめて日帰りでもと、里奈は丸一日、優を好きなだけ電車に乗せることを決めたのだ。

「優、そろそろ出るよ。準備はできてる?」

「うん」

「帽子とハンカチは持った?」

「……持ったよ」

優は慌てて返事をしながら、キャップをかぶり、引き出しからハンカチを引っ張り出した。里奈は苦笑しながら優と自分、それぞれのリュックに水筒を入れ、最後にもう一度持ち物をチェックしてからファスナーを閉めた。

「遅くても5時には帰るからね。仕事帰りの人で混むだろうから」

「うん。で、次はどの電車に乗る?」

「次って……まだどの電車にも乗ってないでしょう」

里奈が思わず笑うと、優はリュックを背負って照れたように玄関へ駆けていった。

「お母さん、早く!」

「はいはい」

最寄り駅に着くと、里奈は窓口で1日乗車券を2枚買った。今日は特に目的地を決めず、優が気になった駅で降りて、また次の電車に乗ってを繰り返すつもりだ。