途中下車で広がる鉄道の世界

再び改札を通り、ホームへ戻る。先ほど乗ってきた電車は、まだ反対側に停まっていた。やがて扉が閉まり、ゆっくり動き出す。

「スマホ貸して。撮りたい」

「落とさないでよ。線の内側からね」

優は両手でスマートフォンを構え、遠ざかっていく車両を夢中で追った。写真は少し傾いていたが、本人は気にしていない。最後尾が見えなくなるまで、画面を向け続けていた。

再び電車に乗り込み、何駅か過ぎたところで降りると、見慣れない色の電車が隣のホームに停まっていた。優は近くにいた駅員を見つけるなり、すぐに駆け寄っていく。

「すみません。あの電車、どこまで行くんですか?」

「優、待って。駅員さんは今、お仕事中だから」

里奈が慌てて優を止めると、駅員は笑って首を振った。

「いえ、今なら大丈夫ですよ。あれはね、この先で別の路線に入る電車なんです」

「じゃあ、いつもの電車と形が違うのはどうして?」

駅員は先頭部分を指しながら、車両の違いを簡単に教えてくれた。優は何度もうなずき、話が終わると勢いよく頭を下げる。

「ありがとうございました」

「お忙しいところ、すみません。ありがとうございます」

2人は礼を言い、駅員から離れた。快く応じてもらえたことで、里奈も肩の力が抜けた。

 

その後も電車旅は続き、昼を過ぎるころには、里奈の足には疲れがたまり始めていた。駅前のベンチで軽い昼食を取り、水筒を優へ差し出す。

「優、疲れてないの?」

「うん、全然平気。食べたら、今度はあの電車に乗っていい?」

「いいよ。その前にトイレ済ませておこうね」

電車に乗り込むと、優は窓際の席で財布を取り出した。1日乗車券を取り出して満足げに眺め、先ほど買った菓子のおつりを中へしまう。

里奈は隣で路線図を見ながら、帰宅時間までにどこまで行けるか考えていた。しばらくして電車が次の駅へ近づくと、優が窓の外を指さした。

「お母さん、あれ! ほら、旧型だよ!」

隣の線路に目当てにしていた車両が停車しているらしい。

「優、ここで降りるの?」

「うん、早く早く!」

「あ、ちょっと待って!」

里奈は慌てて立ち上がり、優のあとを追った。2人がホームへ降りると、扉はすぐに閉まり、乗ってきた電車はそのまま先へ走り去っていった。