息子に任せた旅の切符

「これ、今日ずっと使えるの?」

「使えるよ。改札を出ても、また入れるから捨てちゃ駄目だよ」

優は子ども用の券を両手で受け取り、表と裏を何度も見た。

「これ、持って帰っていい?」

「もちろん。いい記念になるね」

そう言って里奈は自分の券を財布にしまう。優も小銭の入った青い財布を取り出し、乗車券が折れないよう慎重に差し込んだ。

「お母さんが持っておこうか?」

「ううん、自分で持つ。ぼくの切符だから」

「じゃあ、なくさないように気をつけてね」

優は少し考えたあと、財布をリュックの奥に入れ、ファスナーをきちんと閉めた。

最近の優は、自分のものは自分で持ちたがることが増えた。心配もあったが、何でも先回りして取り上げるわけにもいかない。

ホームへ上がると、ちょうど電車が滑り込んできた。優は車両の先頭を確かめ、目を輝かせる。

「これ、昨日言ってた車両だよ。図鑑で見るよりかっこいい」

「本物が見られてよかったね」

空いていた窓際の席に座ると、優は流れる景色だけでなく、車内放送にも耳を澄ませていた。反対側から別の電車がすれ違うたび、窓に顔を近づけては車両の名称や行き先を口にする。

今日の優はいつも以上に楽しそうだ。

帰るまでの間に、きっと何度も同じ話を聞くことになるだろう。それでも、こんな嬉しそうな顔を見られるなら悪くない。里奈はそう思いながら、次の駅名を告げるアナウンスに耳を傾けた。

 

   ◇

 

最初に降りたのは、各駅停車に乗り換えてしばらくたったころだった。

車窓から優が興奮気味に指さしたのは、こじんまりとした駅。駅舎の屋根の一部がドーム型になっている。

「ここの駅、屋根が丸いよ。降りてみたい」

「わあ、ほんとだ。かわいらしい駅だね」

里奈は次の電車までの時間を確かめ、優と一緒に改札を出た。駅前には小さな売店とベンチの並ぶ広場があるだけで、観光客らしい人の姿もない。

どうやら利用者の少ない路線のようだ。それでも優は、駅舎を見上げたり、入口に掲げられた駅名を読んだりして忙しそうだった。

「お母さん、ここで撮って」

「はいはい。看板が隠れないように、もう少し右に寄ってね」

優が駅名標の横で胸を張る。里奈が写真を撮ると、優はすぐに画面を確認し、満足そうにうなずいた。