親子で決めた新しい支え方
母1人でも生活に支障がなさそうなことを確認した遥花は、自宅へと戻っていた。
ある日の夕方、家事の合間にリビングでひと息ついていると、スマートフォンが鳴った。
画面には母の名前が表示されている。
「もしもし、お母さん。どうしたの?」
「今日は病院に行ってきたから、報告しようと思ってね」
「そっか。具合はどうだった?」
「今のところ落ち着いてるわよ。お薬もちゃんと使ってるし、咳も前よりずっと減ったの」
遥花はほっとした。電話越しの母の声には以前のような明るさが戻り、会話の途中で苦しそうに息を整えることもない。
「それならよかった。でも、油断しないでね」
「はいはい、分かってます。それより聞いてよ。今日、帰りにスーパーへ寄ったらね……」
母は最近お気に入りの菓子が安くなっていたことや、近所の人と立ち話をしたことなどを楽しそうに話し始めた。遥花も買い物帰りに息子の同級生の母親とばったり会った出来事を話し、2人はしばらく笑い合った。
こうして母と電話で話す機会は、以前よりずっと増えていた。遥花から連絡することもあれば、母から何でもない用事で電話がかかってくることもある。
「あ、そうそう。年末はそっちに帰るね」
「本当? 私は嬉しいけど、無理しなくていいのよ。みんな忙しいでしょう」
「お正月休みだし、大丈夫だよ。それに、慎二さんも勇人も久しぶりに行きたいって」
電話を終えたあと、遥花はスマートフォンをテーブルに置いた。窓の外では、夕陽が赤く色づき始めた木々を照らしている。遥花はそのまぶしさに軽く目を細めながら立ち上がり、夕食の支度を始めた。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
