休日の昼下がり、美佳がリビングで洗濯物をたたんでいると、キッチンからコーヒーの香ばしい香りが漂ってきた。

「美佳、一緒にコーヒー飲まない?」

「うん、もらおうかな」

ちょうど洗濯物がたたみ終わったので、美佳は夫・晴彦の声かけに応じて立ち上がり、ダイニングテーブルへと向かった。娘の由美子が友達と遊びに行っていることもあり、昼下がりのリビングを流れる空気は穏やかだ。

趣味のコーヒーに夢中になる夫

美佳は青いマグカップに口につけてコーヒーを飲んだ。

「あ、美味しい。スッキリしてるけど、なんか後味にちょっと酸味があって。これどこの豆なの?」

「エチオピアの豆だよ。ちょうど昨日届いてたからさっそく使ってみようと思ってね。今回はちょっと焙煎の深度を変えてみたんだ。中煎りにすると豆本来のほんのりとしたフルーティな瑞々しさがより際立つと――」

嬉しそうに答える晴彦を眺めながら、美佳はさらにもうひと口コーヒーを飲んだ。

晴彦がコーヒーにハマったきっかけは仕事だった。食品メーカーで営業職をしていた晴彦は、ある案件でコーヒー商品の販売に携わり、さまざまな商品を飲み比べるようになった。最初は美味しいコーヒーを飲むことを楽しんでいただけだったが、次第に自分で淹れるようになり、豆の種類や挽き方にもこだわるようになった。最近では、生のコーヒー豆を仕入れて自分で焙煎するようにもなっており、もうすっかり立派な趣味だった。

25歳のときに結婚し今年で結婚12年目を迎えるが、これまで晴彦には趣味らしい趣味がなかったので、人は趣味ひとつでこうも変わるのかと美佳は内心驚いていた。

「ああ、美味しい。なんだかお店で飲むコーヒーみたい」

「はは、さすがにそれは褒めすぎだよ」

「そうかなぁ。これだけ美味しいならお店を開けるレベルだと思うけど」

晴彦は照れくさそうに微笑んだ

「そうかな?」

「そうだよ。売れると思うよ~。こんだけこだわって美味しいコーヒー淹れてるんだもん」

美佳は笑いながらもう一口コーヒーを飲んだ。それからも2人はたわいない会話をしながら、のんびりと休日の午後を過ごした。