家計を数字にして不安の正体を探る

退院した母が実家に戻ってから、数日が過ぎた。夫に連絡して滞在を延ばした遥花は、買い物や掃除を手伝い、母が無理をしないようにあれこれ気を揉んだ。

その日の午後、母の体調が落ち着いているのを確認してから、居間のテーブルに書類を広げた。

「お母さん、約束してたお金の確認、今日やってみようか」

「ええ。でも、どこに何をしまったかしら」

母は戸棚から通帳や封筒を取り出したが、年金の通知書がなかなか見つからない。遥花も一緒に探し、引き出しの奥からようやく見つけた。

「あったわ。お父さんが亡くなってからの通知書もあるわよ」

「ありがとう。まずは実際に振り込まれている額を見よう」

遥花は母自身の年金と、亡くなった父に関する遺族年金の通知書を確認した。2カ月ごとの振込額を月額に直し、紙に書き出していく。

「こうすると、少しは分かりやすくなったでしょ」

「そうね。通帳には2カ月分まとめて入るから、いつも何となく見てたわ」

続いて、家計簿を開いた。食費、光熱費、日用品代など、細々とした生活費も加えて計算する。母は父から相続した持ち家で暮らしており、特に大きな買い物もしない。

「次は病院代ね。前の領収書、残ってる?」

「この封筒に入れてあるはずよ」

診察代と薬代を月ごとに並べると、費用の目安が見えてきた。それから遥花は、スマートフォンで高額療養費制度の案内サイトを開いた。

「お母さん、いい? ニュースで言ってたのは、1カ月間に自己負担する額の上限の話だね。病院の窓口で払う割合が、みんな一斉に増えるってことじゃないんだよ」

「じゃあ、病院代が高くなるわけじゃないの?」

「えーっと……お母さんの場合だと、外来の月上限が18,000円から22,000円に上がるみたい。でも、これまでの診察代と薬代を見る限り、自己負担額の上限には届いてないよ。いつものペースで通院するだけなら、病院代は前と変わらないはず」

母は遥花が書き出した数字を指で追い、しばらく考えていた。

「それなら、今までどおり通院しても暮らしていけるのね」

「大丈夫だよ。定期的に病院に通っても、まだ余裕があるからね」

それでも母はなお、今後もっと治療費がかかったらどうしようと不安を口にした。遥花は簡単に高額療養費制度の仕組みを説明してから、必要になったときには一緒に確認しようと約束した。

「私、心配ばかりして、肝心なことを確かめてなかったのね」

「そうだね。節約は大事だけど、病院は我慢しないでほしいな」

「そうね。これからはちゃんと通うわ。分からないことがあったら、遥花に聞くことにする」

母は通知書をそろえ、丁寧に封筒に戻した。その表情は、書類を広げたときよりどこか明るくなっていた。遥花は封筒を引き出しに戻すのを手伝いながら、母が自分で通院を続けると決めてくれたことに安堵していた。