「人間をスペックだけで語るのはおかしいですよ」
「失礼ですが、勘違いしているのはそちらじゃないですか」
萩原真一がそうはっきり言うと、長瀬理恵は言い返されると思っていなかったのか、ちょっと驚いたようだった。
「そりゃ、自分はアラフォーだし、あまりモテるタイプでもないので、人気がないのは分かってますよ。だから結婚相談所に来ているわけですから」
長瀬理恵は特に表情も変えずに黙って聞いていた。
真一は続ける。
「そもそも、年齢とか年収とか、人間をスペックだけで語るのはおかしいですよ。そういうものの見方や価値観こそ、歪んでいるんじゃないですか? 逆に、そんな歪んだ価値観の持ち主に、結婚相手を紹介してもらうのは不安ですよ」
真一は立ち上がった。
「すみませんが、登録はキャンセルさせてください」
それだけ言い残して、真一は結婚相談所を立ち去ったのだった……。
「良かったら、少しお茶でもいかがでしょうか」
結婚したいから、結婚相談所を訪れたのに、応対したカウンセラーを論破して帰ってきてしまった。真一もさすがに自分の行いを反省していた。
ただ、思ったことをきちんと言葉にして伝えられたことには満足もしていた。
「きっとあの結婚相談所が自分と合わなかったんだ」
そう思って、あらためて婚活のための情報を集めていた。
と、そんな真一に、長瀬理恵からメールが届いたのだった。
「先日はお越しくださりありがとうございました。また、いろいろ失礼なことを言ってしまって申し訳ございません。実は、萩原さんに指摘されたことについて、あれからいろいろ考えるようになりました。個人的にも学びが多かったと感じています。
実は、萩原さんのお話を個人的にもっと伺いたいと思っております。もし良かったら、少しお茶でもいかがでしょうか」
真一は長瀬理恵のことを思い出した。そう言えば、長瀬理恵自身もまだ独身だと自己紹介していた。年齢は少し上のようだが、あらためて考えてみると、むしろ自分と釣り合う年齢かもしれなかった。
「これはこれで、むしろ良かったのかもしれない」
萩原真一はそう思い、メールの返事を書き始めた。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
