失うものの大きさに震える夫
大樹は全身の血が引いていくのを感じた。障壁を乗り越えて育んだはずの愛情など、どこにもない。そこにあったのは、都合が悪くなればあっさり責任を擦り付け合う醜い関係性だけだった。
「自分はなんて愚かなことをしていたんだ……」
大樹の頭から不倫相手への愛情が一瞬で吹き飛び、残ったのは会社での立場を失う恐怖と、心から自分と子どもを愛してくれていた真由美という存在の尊さだった。
その夜、大樹は真由美の前で膝をつき、涙を流しながら本当の意味で謝罪した。相手女性からの脅迫めいたメッセージも見せ、自分の愚かさをすべて白状したのだった。
妻が下した苦渋の決断
真由美は大樹の言葉を静かに聞いていた。そして、不倫相手からのメッセージを確認しながら「泣き寝入りしないで、具体的な法的アクションを匂わせたのは正解だった」と心底思った。
その後、不倫相手も脅しをかけてきただけで、具体的な動きは見せなかった。
「これからは真由美の信頼を回復できるように家族との生活を守るために行動するよ。お願いだ。これからもずっと一緒にいたいんだ……」
大樹の懇願に真由美は言った。
「傷つけられた心は元には戻らない。でも、あなたを好きな気持ちや、家族を守りたい気持ちはそう簡単には消えないのよ」
真由美の頭には離婚の選択肢もよぎったが、幼い子どもの生活と将来を守るため、そして大樹が心底改心した様子を見て、4つの提案をした。
不倫相手との接触を完全に断つこと、会社へ自ら異動届を出すこと、さらに、今後の給与管理や資産の管理はすべて真由美が握り、大樹のお金の流れを監視すること。そして、万が一再び不倫が発覚した場合は、即座に離婚と高額な慰謝料を支払うという厳格な誓約書を作成することだった。
大樹はその条件をすべて受け入れた。
不倫がもたらす代償の大きさを痛感した大樹は、失いかけた家族の信頼を一生かけて取り戻すことを誓ったのだった。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
