<前編のあらすじ>

山中竜也さんは、大学を卒業したものの、就職に失敗してしまい、しばらく生活が苦しかった。そのため、約10年間、竜也さんは、父親の所有するマンションにタダで住んでいた。

一方、竜也さんの2人の弟、雅也さんと一哉さんは、自分で住宅ローンを組み、購入した家に住んでいた。

3人の父親が亡くなり、相続をどうするか話し合いが始まると、2人の不満が爆発。

「竜也さんは親のマンションにタダで住んでいた。これは、親から特別に利益をもらっていたことになるので、相続の取り分を減らすべきだ」

と主張し、相続トラブルに発展してしまう……。

●前編:【「1200万円はもらったことになるじゃないか!」月10万円のマンションにタダで住んでいた男性に兄弟間から噴出した不満の中身】

トラブルは想像以上に悪化…

「頼む、仲裁に入ってくれ」

私の意見を聞き、頭を下げてくる竜也さん。

「おいおい待ってくれよ」

正直、私は気が進まなかった。雅也さんと一哉さんとは当時も今も一緒に仕事をしている仲で、あまり敵に回したくなかった。仕事だけでなく仲間を失う可能性もあるからだ。

とはいえ、私以外にどうすることもできないようで、押し負けて仲裁を引き受けてしまった。

「あくまでも友人の立場で立ち会うだけだからな」

そう念押しし、竜也さんとともに、雅也と一哉さんを呼び出した。

ただ、詳しく話を聞くと、トラブルは想像以上に悪化していた。

「俺たちは自分で家のローンを払ってきたんだぜ」雅也さんが言う。

「お金に余裕があるわけではないし、俺だって親を頼りたかったさ、でも竜也さんがすでに頼ってるところに、さらに俺が頼るわけにはいかないだろ」一哉さんも言う。

雅也さんの主張も一哉さんの主張も理解できた。

だが、不公平であることが必ずしも法律上の特別受益になるとは限らない。

特別受益は文字通り特別なものだ。今回の山中さんのような事例を特別受益として扱えば、キリがない。おそらく雅也さんも一哉さんも何かしらの支援は受けてきたはずだ。それらも特別受益だと主張していけば、際限がなくなる。

私は特別受益の一般的な定義を説明し、過去の判例を紹介したうえで「気持ちはわかるがここらで手打ちにしないか? 俺たちは大人だ、前に進もう」と、雅也さんと一哉さんを説得した。