「経済的な利益を受けていた」と言えるのか

とはいえ、雅也さんや一哉さんから不満をぶつけられたことに、竜也さんは困惑もしていたという。

親の了解を得て住んでいただけで、自分だけ利益を得るつもりはなかったからだ。

それがまさか親の死後に「1200万円もらったのと同じだ」と、兄弟から責められるとは思っていなかった。竜也さんはかなり落ち込んでしまったという。

そんなどん底の中、竜也さんは私に連絡をくれた。

「久しぶり、ちょっと飲みに行けないか?」

彼の父の訃報は私の耳にも届いていたので、二つ返事で了承した。

数日後、私は彼と、とある大衆居酒屋で会い、話を聞いた。

私は思わず「あー特別受益の問題か」と思わず声を出してしまった。

「特別受益?」彼が私にといかけてくる。

特別受益とは、相続人の一部が被相続人から生前に特別な利益を受けていた場合に、その利益を相続分の計算に反映させる仕組みのことを指す。

結婚資金を援助したり、住宅購入資金を援助したり、起業資金を援助するなどが典型例だ。
要は、親が子に対して、遺産の前渡しと評価できるような、まとまった利益を与えていた場合、特別受益とされる可能性があるというわけだ。

だが、今回の山中さんの状態はどうであろうか。
たしかに、本来は家賃10万円の部屋にタダで住んでいたのだから、経済的な利益を受けていたとはいえるだろう。

だが、家族間では、生活の都合や親子関係から、無償で家に住ませることはよくある話で、特別なことではない。

また、竜也さんの親のマンションは、もともと親が収益物件として人に貸し出していたものでもない。

加えて遺言書その他、生前の発言から親所有のマンションに住むことが相続分の前渡しとするという考えが示されていた証拠もなかった。

そう考えた私は「特別受益にはなんないんじゃないかな」と彼に意見を述べた。

●納得のいかない弟2人はエスカレート……。後編【「兄さんだけ1200万円ももらって不公平だ!」2人の弟から取り分を減らせと求められた「泥沼相続トラブルの顛末」】では、寄与分の扱いについてくわしく解説します。

※プライバシー保護のため、事例内容に一部変更を加えています。