相続では、生前、誰がどれだけ援助を受けていたのかが問題になることがある。

特に相続人のうち1人だけ親から手厚い支援を受けていた、などの事情があると、それが「生前に遺産を前渡しされたようなものではないか」とされて争いの原因になることも珍しくない。

今回は、そうした親からの支援について、実際にトラブルに発展した山中さんの事例を通じて考えてみたい。

父親の所有するマンションに約10年間住み続けていた

トラブルは、大学卒業後、就職に失敗した山中竜也さんが、父親の所有するマンションに約10年間住み続けていたことに起因する。
その間、家賃は払っていなかった。通常なら家賃が10万円はするであろう物件で、竜也さんの生計はこの家にタダで住めることで成り立っていたといっても過言ではなかったという。

一方、竜也さんの2人の弟、雅也さんと一哉さんは違った。2人はそれぞれ自分で住宅ローンを組み、購入した家に住んでいたのだ。

家を購入するには毎月のローン以外にも固定資産税や修繕費もかかる。
つまり、家を持つということは、長い年月にわたって大きな経済的負担を背負うことでもあるわけだ。

だからこそ、雅也さんと一哉さんは、竜也さんに対して以前から釈然としない思いを抱えていたようで、それが相続をきっかけに爆発したのだった。

「自分たちは住宅ローンを払ってきた」
「兄さんだけは親のマンションにタダで住んできた」
「それなのに相続で同じ取り分というのはおかしいのではないか」

ここまではどちらかというと、雅也さんや一哉さんからの、竜也さんへの嫉妬のようなものだった。

だが、事実ということもあって上手く言い返すことのできない竜也さんに対して、雅也さんと一哉さんはさらにヒートアップする。

「親のマンションを普通に貸していれば、毎月10万円以上の家賃が入ったはずだ」
「兄さんはそれを10年も無料で使っていただろう!」
「じゃあ少なくとも1200万円はもらったことになるじゃないか!」

兄弟から口々に不満の声をぶつけられ、ひたすら黙ってそのときを耐えたと後に私に語ってくれた。
「雅也と一哉の気持ちも分かりますから……」

竜也さんは当時を振り返りながらそう声を震わせていた。