泣いて帰宅した息子

それから3日後の土曜日の昼、いつものように近所の公園で遊んでいたはずの大輝が、予定よりもずっと早く家に帰ってきた。頬には涙を流したあとがあり、洋服や膝には砂がついたままになっている。

「どうしたの……⁉」

佳織が訊ねると、大輝はぎゅっと唇を噛んだ。

「お金、文晴が全然返してくれなかった」

今にも泣きそうなせいで要領を得ない大輝の話を聞くと、陸人はすんなり返してくれたものの、文晴は「もらったものだから嫌だ」と返してくれなかったらしい。言い合いの末に取っ組み合いのケンカになり、家に帰ってきたそうだ。

「すぐ返すって言ってたのに返してくれなかったし、返してって言ったら怒るし……。こんなことなら貸さなきゃよかった……」

大輝は寂しそうに目を伏せた。

佳織は大輝の顔を見ながら、静かに口を開いた。

「お母さんが前に心配していたのは、こういうことなの。大輝が友達を助けようとした気持ちは悪くない。でも、お金が間に入ると仲のよかった相手ともケンカになったり、遊べなくなったりすることがあるの」

大輝は黙って話を聞いていた。

「今度、また同じようなことがあったら、お金は貸しちゃダメよ。もしそれで困ったら、私やお父さんに相談してね。助けたいなら、お金を貸す以外の方法を一緒に考えましょう」

「……うん。もう貸したくない。今度からお母さんに言う」

以前に注意したときとは違い、大輝の返事には実感がこもっていた。

「分かってくれてよかった。当たり前だけど、借りるのもダメだからね。……分かったら、汚れてるからお風呂入っておいで」

佳織の言葉に大輝はうなずいた。翔太は大輝が出ていったリビングのドアに目を向けた。

「……困ってる友達を助けようとしたのに、何で関係が悪くなったりするんだろうな」

翔太は噛みしめるようにつぶやいていた。翔太は裕久に連絡を続けているようだが、反応はいまだにない。そのことにショックを受けているのが伝わってきた。

「そうね。助けたつもりだったから落ち込んでるでしょうね。でもやっぱりお金の貸し借りはダメよ。自分の大切なものを失うことがあるんだから」

翔太は何も答えず、気まずそうに目を伏せた。佳織も黙って翔太を見つめた。言いたいことはあったが、あまり責めすぎるのはよくないと思った。