受け手の立場になった手紙
「エミリーのお父さんも日本語はあまり得意じゃないんだって。話すのはできるけど、漢字とかはあまり読めないって言ってた」
「……そうよね。そういう人はいるよね」
エミリーの家はお母さんが日本人なので、そこまで問題はないのかもしれない。しかし、両親ともに外国籍の家庭も多い。そうなると日本語だけの文章では内容が伝わらなくても不思議ではない。
望海は自分が作ったおたよりを思い返した。太字で書いてみたり、期限の部分を大きくして目立たせたり、表現に頭を悩ませたりしていた。しかし、どれだけ丁寧に説明しても、読む相手が日本語を理解していなければ、それらの工夫はまったく意味をなさない。
大きなため息をついた望海を、莉緒は不思議そうに眺め、首をかしげていた。
◇
洗い物を終えた望海はリビングのテーブルに座ってパソコンを開いた。
まず翻訳アプリを開いて「大切なお知らせです。必ず読んでください」と入力し、表示された英文をおたよりの一番上に大きく載せた。さらに「子どもたちの学校生活のサポートのためにPTA会費納入にご協力ください」という文章も英語に訳し、日本語のすぐ下に添えた。他にも会費の金額、支払い方法、会費の使い道なども一つ一つ翻訳をして、文章を加えていった。
一度すべて書き終えたあとに、翻訳された文章がちゃんと伝わるかをAIで確認し、文章をブラッシュアップさせた。配付前には、念のため英語のわかる先生にも内容を確認してもらった。
今度こそうまくいく――。
受け取る人のことを考えて作った今回のおたよりは、前回以上の手応えがあった。
◇
2週間後、望海が家で洗濯物を干していると、グループチャットに会計担当から連絡が入った。
おたよりの配布後、すぐに15世帯から会費の納付があり、支払い方法に関する問い合わせも寄せられたという。
望海はきちんと反応があったことに嬉しくなり、小さくガッツポーズを作った。
払う意思がなかったわけでも、意図的に無視していたわけでもなかった。何を求められているのか、何をしたらいいのかが伝わっていなかっただけだったのだ。
望海はベランダから燦々と照る太陽を見上げる。洗濯物がよく乾きそうだと思った。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
