父を襲う最悪の予感
波打ち際に着くなり、峻也は歓声を上げて海に足を入れた。
「冷たい! お父さん、早く泳ごう!」
「よし、そうだな」
伸也はそう言って手を繋いでいた絵梨香に目を向けた。絵梨香は少し表情を引きつらせて海を見ていた。
「絵梨香も入ってみるか?」
絵梨香は首を横に振った。
「……怖いか?」
「……ざぶんって来てるのが嫌だ」
絵梨香は波を怖がっていた。
「そ、そうか……」
絵梨香の反応に伸也は肩を落とした。楽しんでもらいたくて連れてきたが、やはり自分の独りよがりだったのかもしれない。
「じゃあお母さんのところに戻るか?」
「ううん」
そう言って絵梨香は波打ち際に中座して指で砂浜をイジりだした。
「ここで絵、書いてる」
そういえば絵梨香は絵を描くのが好きだったなと伸也は思い出した。
「そうか。それじゃ描けたらあとで俺にも見せてくれるか?」
伸也の質問に絵梨香は黙ってうなずいた。
「お父さん、早く泳ごうよ!」
すると峻也が待ちきれないとばかりに大声を出した。
「ああ、分かった。一緒に泳ごう。絵梨香、そこから動くんじゃないぞ」しかし絵梨香は反応しなかった。それでも聞こえてはいるだろうと思って伸也は海に入っていった。
海に入ると冷たさと波の心地よさで伸也も気持ちが高揚した。峻也はその何倍も楽しそうにバタ足をしては伸也に顔を向けて満面の笑みを見せてきた。
「お父さん、競争しよう!」
「おいおい、俺に勝てるわけないだろ」
そう言いながら、伸也は峻也と一緒に楽しんでいた。峻也が嬉しそうにしている姿を見ると、久しぶりに父親らしいことができたなと思うことができた。
しばらく夢中になって遊んだあと、伸也は絵梨香の様子が気になって砂浜に目を向けた。しかし砂浜に絵梨香の姿はなかった。急いで海を上がると砂浜にはカニの絵だけが残されていた。
「……絵梨香?」
辺りを見渡しても絵梨香の姿はどこにも見えない。その瞬間に伸也の体温が一気に下がった。
●家族サービスのつもりで海へ来た伸也だったが、息子と遊んでいるわずかな間に長女・絵梨香の姿を見失ってしまう。砂浜に残っていたのは、娘が描いた絵だけだった…… 後編【「ちょっと目を離しただけ」が命取りに…水上警察出動の大捜索で分かった「消えた娘の行方」】にて、詳細をお伝えします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
