「弟の葬儀に3000円というわけにはいかない」

発端になったのが義父の葬儀の際のお香典でした。

亮真の出身地には新生活運動の慣習があります。新生活運動とは、華美に走りがちな冠婚葬祭を簡素化するために、お香典などの額を抑え、代わりに香典返しは遠慮するという合理的な制度です。

生まれも育ちも神奈川の私にとっては初めて聞く言葉でしたが、戦後の一時期は全国的に行われていたようで、今も一部の地方にだけ当時の慣習が残っているのだそうです。

実際に新生活運動の葬儀を体験すると、お香典を頂戴した方には会葬御礼をお渡しするだけで済み、香典返しに頭を悩ませる必要もないので結構楽でした。私自身、4~5年前までは友人の結婚祝いの負担が本当に大変で、東京にも新生活運動があればいいのに、と思ったくらいです。

そうした中で、仰々しい黒白の水引の付いた香典袋に、10万円を包んできた人がいました。義伯父です。最初は戸惑いましたが、「原口家の当主として弟の葬儀に3000円というわけにはいかない。あくまで気持ちの問題だから返礼は不要だ」と言われ、そういうことかと納得しました。

義伯父に会うのは私たちの結婚式以来だったので丁寧に挨拶をし、会葬御礼をお渡ししました。

式を終えた後は、本当に香典返しをしなくていいのか悩んだのも事実です。

私の実家は亮真が「奈緒のご両親からは結婚式で過分な結婚祝いを頂戴しているし、香典をいただいても父が使えるわけではないから」とお香典を固辞したので、スタンド花代を出してもらうだけにしました。母がお互い様と言うので香典返しはなしです。

一般的な香典返しがどうなるのかよく分からなかったので母に聞いてみたところ、「半返しでは多すぎるけど、3分の1くらいはお返しするのがいいんじゃないの?」と言われました。亮真にそれを伝えたら、「伯父貴本人が不要って言ってるんだし、余計なことはしなくていいよ」と一刀両断にされてしまいました。