婚約者の優先順位に絶句

式場見学が週末の日曜日に迫り、なつみは仕事から帰ると冷蔵庫を開けて夕食の準備を始めた。部屋着に着替えてソファでくつろいでいる慎吾に、なつみは声をかけた。

「今週の日曜の式場見学だけど、11時からだから時間も覚えておいてね」

なつみが言うと、慎吾は驚いたような目をこちらに向けてきた。

「え? 式場見学って今週だったっけ?」

「そうよ。ちゃんと言っておいたでしょ。しっかりしてよ」

何で覚えてないのよ、と軽くイラッとしたが、態度に出さないように気をつけた。

「なつみ、ごめん」

慎吾の声が急に低くなった。

「何?」

「その日、ツーリングの約束を入れちゃってた」

慎吾の言葉に軽い苛立ちが怒りに変わっていった。

「……何で? 約束したはずよ?」

「ごめん。日にちを勘違いしてた。それでツーリングの予定を入れちゃってたんだ。だから式場見学には1人で行ってもらっていい?」

なつみは慎吾に鋭い視線を向けた。

「どうしてそうなるの? 先に約束したのは私だし、結婚式の準備のためにやるべきことでしょ? それなのにどうしてツーリングをやめるってならないわけ?」

「……地元の先輩から誘われたやつだから断れないんだ。だから、もしどうしても2人で行きたいのなら見学の日程をずらしてもらえないか? 来週なら確実に行けると思うし……」

「結婚式の準備を後回しにするってこと……?」

「いやだってまたあと10カ月もあるし、別にそんな焦らなくても……」

「焦らなくてもって……」

なつみはそれ以上、言葉が出なかった。

式場を決めて、見積もりを出して、招待客を考えて、衣装を選んで料理や写真のプランを決めないといけない。新婚旅行の事だってある。不安だからこそ、何でも早めに着手しておきたいと思っているのに、慎吾にはそんな気持ちはなかった。

「……慎吾にとってはその程度ってことね」

「……いや、ち、違うって」

慎吾は焦った顔でなつみに歩み寄ってきた。しかしなつみは慎吾から目線をそらした。

「だから貯金だってちゃんとやらないんだ。自分は好きなだけお金使ってるのも、式なんて別に挙げなくてもいいって思ってるからでしょ?」

「そ、そんなことないって。式は挙げたいって本気で思ってるよ」

「口だけじゃん。全然協力してくれないし、そんなことならもういいよ」

なつみはリビングを出て寝室に向かった。ベッドに飛び込み、顔を埋めると涙が出てきた。

少し前までは結婚式のことを考えると幸せな想像ばかりでてきた。しかし今は慎吾と一緒になって幸せに本当になれるのか疑問が渦巻いていた。

●結婚式の準備を少しでも前に進めたいなつみに対し、慎吾はどこか温度差のあるまま、式場見学より別の予定を優先した。幸せなはずの同棲生活に不安が差し込み、この人と本当に幸せになれるのかとなつみは迷い始める…… 後編【結婚式より別の予定を選んだ婚約者が一転…彼女の怒りを変えた“意外な行動”】にて、詳細をお伝えします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。