ボーナスなしの妻が買ったもの
ボーナスの会話をしてから3日が経ったある日のこと、仕事から帰宅した海斗はいつものように寝室で部屋着に着替えようとした。しかし寝室に入ると真っ先に目に入ったのは化粧台の上に置かれた小さなケースだった。淡い水色の箱に白いリボンがかかっている。
見覚えのある色だった。昔、遙香はこのブランドのイヤリングを持っていてよく付けていた。ただ片方を落としてからは付けなくなっていた。
どうして今さら引っ張り出してきたのか気になって海斗はケースを開けた。中にはイヤリングではなく、細いチェーンのネックレスが入っていた。
海斗は眉をひそめた。遙香がアクセサリーを買ったなんて聞いてない。しかもこのブランドのものなんて簡単に買えるような値段でもないはずだ。ボーナスが出なかったと落ち込んでいたばかりなのに、こんな高そうなものを買って何をしているんだろう。ご飯を食べたら聞いてみようと思い、海斗はケースを閉じて部屋を出た。
「そういえば寝室にあったネックレスは何? 見たことないけど?」
「ああ、あれ? 別に大したものじゃないよ。キレイだったから買っただけ」
遙香は相変わらず携帯を触りながら答えた。
「いやでも買うなら一言あっても良かったんじゃないか?」
「別にあれくらい好きに買っていいでしょ」
そう言うと遙香はソファから立ち上がった。
「え? ど、どこ行くんだ?」
海斗は思わず聞いていた。
「いやお風呂に行くんだけど……」
そう言って遙香はリビングを出て行ってしまった。海斗はどこか避けられているのではないかと感じた。
そのまま1人でご飯を食べていると遙香がリビングに戻ってきた。
「お皿、シンクに置いておいてね」
「……いや、俺が洗うから気にしないでいいよ」
「そう。ありがとう」
そう言うと遙香はリビングの扉を閉めた。遙香の背中を見送りながら海斗は引っかかりを覚えた。
遙香の右手にはしっかりと携帯が握られていた。それ自体は珍しいことではないが、遙香は風呂に携帯を持っていくようなタイプではなかった。だいたいリビングに置いておくか、寝室で充電をしていたはずだ。
海斗はここ最近、遙香がずっと携帯ばかりをいじっているということに気付いた。
誰かとやりとりをしているのだろうか? だとしたら誰と?
そんな考えがよぎり、海斗は慌てて首を振った。ばかげている。遙香に限ってそんなことがあるわけない。自分に言い聞かせるが、それでも疑いの気持ちは脳裏にこびりついたままだった。
