実家に漂う小さな異変

実家に着いたのは、ちょうど昼前だった。結局、夫は連休中も仕事で休みが合わず、真希は息子と2人で帰省することになった。門のそばに立つ古い柿の木は、以前と変わらない。しかし真希たちを出迎えた母は、電話で聞いていた印象より、ずっとつらそうだった。

「ごめんね、わざわざ来てもらって」

片手を腰に当てながら、足を1歩前に出しては立ち止まる。

「無理して出てこなくていいのに」

「これくらいは動けるわよ」

真希が靴を脱いでいる間に、息子が先に上がり込んだ。

「ばあば、久しぶり」

「まあ、大きくなったねえ。重そうな荷物背負って」

「重くないよ。中身はゲームと着替えだけ」

そう言って息子がリュックを揺らすと、母は愉快そうに笑った。

しかし笑顔を見て安堵したのも束の間、玄関から居間へ戻るまでの短い距離でも、母は時折壁に手を添えている。やはり痛みがひどいのだろう。

「母さん、お昼まだでしょ? 適当に買ってきたから一緒に食べよう」

「ありがとう。悪いわね」

簡単な昼食を終えて人心地つくと、真希は母から買い物のメモを受け取った。米、洗剤、トイレットペーパー、牛乳、卵、野菜。想定していたよりも品数が多い。

「結構あるね。だいぶ前から行けてないの?」

「ちょこちょこは自分で買ってたのよ。でも、重いものは後回しになっちゃって」

「そっか。じゃあ、私行ってくるね」

ゲームに夢中な息子を実家に残し、真希は車で近くのスーパーへ向かった。米袋をカートに乗せ、洗剤や日用品を次々と買い物かごに入れていく。あっという間に重量が増し、母がこれを1人で持ち帰るのは無理だと分かった。

「こんなに買ってもらって、ごめんね」

食品も多めに買って帰ると、母は申し訳なさそうに言った。

「いいって。今日はこのために来たんだから」

真希は台所へ買い物袋を運び、冷蔵庫を開けた。中は空ではないが、使いかけの野菜や日付の近い豆腐が目についた。流しには茶碗と小皿が残り、調理台の端には、洗ったのかどうかも分からない空き容器が置かれている。

居間に戻ると、座椅子の横に洗濯物が畳みかけのまま積まれていた。荒れているというほどではない。しかし、きれい好きだった母を知っているだけに、ショックだった。

「あとでやろうと思ってたのよ」

真希の視線に気づいたのか、母が先回りするように言った。

「うん。分かってるよ」

どうしてもっと早く頼ってくれなかったのか。

真希は喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。本当は、1人で何とかしようとする母にも、母の異変に気づけなかった自分にも腹が立っていた。だが、腰をかばって座る母の姿を見ると、口には出せなかった。

「いくつか作り置きもしとくね」

「そこまでしなくていいのに」

「いいのいいの。ついでだから」

真希はエプロンを借り、買ってきた野菜を洗い始めた。息子は居間で、母に学校の話をしている。包丁の音に混じって、時折2人の笑い声が聞こえた。